採掘許可を受け取り、ムハマディヤは地球を壊すビジネスに参入する


2024年7月28日付『モンガベイ』(Mongabay、インドネシア)

イルファン・マウラナ、ファラヒ・ムバロク

原文リンク:https://www.mongabay.co.id/2024/07/28/terima-izin-tambang-muhammadiyah-masuk-ke-bisnis-perusak-bumi/

〔概要〕

銅や錫、ニッケルなどの埋蔵量が豊富なインドネシアにおいて鉱業は主要産業であると同時に、汚染や森林破壊などの環境破壊や利権をめぐる政治的問題、児童労働の問題等が常に指摘されてきた。通常、インドネシアで採掘業を行うのは政府からの許可を得た採掘会社である。ところが2024年5月、ジョコウィ大統領は採掘会社だけでなく、宗教団体に対しても採掘事業区域の管理を許可する規則に署名した。宗教団体が採掘業に参入可能になるこの決定に対して、環境団体や人権団体、宗教団体から反対の声が相次いだ。特に、近年インドネシアのイスラーム団体は環境保護活動に積極的に取り組んでおり、その青年層は、さまざまな団体間で連帯し、採掘に反対する運動を展開していた。こうした状況下で、数千万人規模の構成員を持つインドネシア最大のイスラーム団体「ナフダトゥル・ウラマー」指導部が採掘事業許可の受諾を宣言した。そして7月、ナフダトゥル・ウラマーに次ぐ全国規模のイスラーム団体「ムハマディヤ」指導部もついに採掘事業許可の受諾を決定した。本記事はムハマディヤによる採掘許可受諾の決定後に書かれたものである。

〔本文〕

はじめに

インドネシア最大のイスラーム団体ナフダトゥル・ウラマー〔Nahdlatul Ulama: NU〕が政府からの採掘許可を〔訳註:宗教団体のなかで〕最初に受け取ったのち、今度はムハマディヤが続いた。ついに、ムハマディヤ中央指導部(Pimpinan Pusat Muhammadiyah)は石炭の採掘事業許可(Izin Usaha Pertambangan: IUP)を受諾したNUの後を追うことを決定したのである。インドネシアで2番目に大きなイスラーム団体によるこの決議は、先日の総会で下された。環境団体だけでなくムハマディヤ構成員も含む様々なグループがこの決定を批判した。

ムハマディヤ中央指導部のアブドゥル・ムティ書記長は、去る7月13日にムハマディヤ中央指導部の総会にて石炭のIUPが議論された、と話した。そして、正式な決議は、7月27日・28日にジョグジャカルタ・アイシヤ大学で行われる全国団結式の後に発表される、とムティ書記長は述べた。モンガベイが入手した声明(2024年7月27日)のなかで「神の思し召しにより、ムハマディヤは、7月27日から7月28日にかけてジョグジャカルタ・アイシヤ大学で開催される全国団結式の後、正式に発表する」と、ムティ書記長は宣言した。

ムティ書記長によると、IUPの正式なオファーは、インドネシア投資大臣で投資調整庁(BKPM)長官であるバフリル・ラハディラ氏から直接伝えられた。とはいえ、彼らは鉱山の場所を知らない。「中央指導部の総会のなかで政府からの申し出があった。しかし、正式な鉱山の位置はまだムハマディヤに伝えられていない」とムティ書記長は告げた。

中部スラウェシ地方議会前でデモが行われた、反・採掘の日に掲げられたポスター。パルにて。
〔坑内で亡くなった子どもたちに哀悼の意を表する、とポスターには書かれている〕(写真:ミニー・リヴァイ、モンガベイ・インドネシア)

ムハマディヤ中央指導部の構成員であるアンワル・アッバス氏は、たとえ採掘許可を受け取っても、ムハマディヤは環境を保護しなければならない、と記者に語った。

IUPの付与は、ジョコ・ウィドド大統領〔通称ジョコウィ〕が2022年1月に土地・投資アレンジメントのためのタスクフォースに関する大統領令2022年第1号に署名した際に始まった。この大統領令により、バフリル氏はタスクフォース長として、採掘許可、事業権、森林区域のコンセッションについての評価を行うことが義務付けられた。加えて、さらに、地域団体や協同組合などが土地を取得しやすくする制度も提供される。

ジョコウィ大統領は2023年10月、投資アレンジメントのための土地割り当てに関する大統領令2023年第70号を再度公布した。この規則により、バフリル氏率いるタスクフォースは、採掘許可、プランテーション、森林区域コンセッションを廃止し、宗教団体や協同組合などに土地利用許可を付与することを任務としている。タスクフォースはこれまで1,118のIUPと15の森林地域借用許可(Izin Pinjam pakai Kawasan Hutan: IPKH)を廃止している。〔これまで下された〕許可は、採掘事業許可2,078件、IPKH192件、プランテーション事業権34,448ヘクタールである。

ゴロンタロの違法採掘場で発生した地滑りの犠牲者(写真:バサルナス・ゴロンタロ)

地球を破壊するビジネスに手を染める

350.orgインドネシアの暫定リーダーであるフィルダウス・チャフヤディ氏は次のように語った。ムハマディヤの指導者は地球を破壊する汚れた石炭産業の経営に組織を陥れた。環境意識を持つインドネシアの人々は、ムハマディヤのエリートたちに失望している。

「ムハマディヤは、その団体のシンボルのように〔太陽を模している〕、太陽エネルギーの管理を選択するべきだった」チャフヤディ氏は繰り返し訴える——ムハマディヤは石炭採掘が破壊的であり、経済的な未来がないことを知るべきだ。多くの外国銀行がもはや採掘ビジネスに資金を提供したがらない。ムハマディヤは全ての慈善事業ユニットにおいて再生可能エネルギーの管理を主導することが必要だ。

Celios〔Center of Economics and Law Studies, インドネシアのシンクタンク〕と350.orgインドネシアの調査によると、コミュニティ・ベースの再生可能エネルギー利用によって1,600万人以上の貧困を削減することができる。「雇用面では、エネルギーに限らず、加工業や貿易などを含むさまざまな分野で9,600万人の雇用機会がある」とチャフヤディ氏は述べた。

チャフヤディ氏によると、ムハマディヤ中央指導部は目先の利益ではなく、良心と常識に基づいた決断を下す賢明さが必要だ。ムハマディヤのエリートたちは、暗闇のなかで光となることが期待されているが、むしろ、組織を炭坑の中に投げ込み、光を消してしまった。「ムハマディヤは石炭のために沈むにはあまりにも大きすぎる。ムハマディヤのエリートに対する大衆の失望はムハマディヤの広範囲にわたる慈善事業すべてに悪影響を与えかねない」とチャフヤディ氏は言う。

〔ゴロンタロで起きた地滑りの〕ちょうど1年前の2020年4月にも同じような事件が起きており、サンギル・バタンハリ郡ナガリ・ラナ・パンタイのタラキーク採掘場では土着の鉱夫9人が地滑りによって土砂の下敷きとなった。(写真:ビノリア、モンガベイ・インドネシア)

マイニング・アドボカシー・ネットワーク(Jaringan Advokasi Tambang: Jatam)の法律部門長であるムハンマド・ジャミル氏も、科学知識に依拠する宗教団体であるはずのムハマディヤが石炭採掘調査についての知見を持たないことに驚いていた。

ジャミル氏いわく、石炭は、自然破壊と地球温暖化による気候変動を引き起こす主要因であることが確認されている。「私たちは、他のアクターが石炭から離れた途端、宗教団体が自らこの事業に身を投じることを、残念に思う」と彼は言う。

彼は、ムハマディヤがその決議を取り消すことを望んでいる。なぜなら、それは環境保護に取り組むという同団体の精神に沿うものではないからだ。「初めから、私たちはムハマディヤ中央指導部が公式に発表した文書を注視してきた。議論から法的意見、ムハマディヤ中央指導部「知恵と公共政策委員会」(LHKP)のチームまで、ほぼ全員が最終的には石炭採掘を許容しないという結論を出している」

宗教団体は、福祉事業を充実化させるためにIUP(採掘事業許可)を受諾すると言うが、それは言い訳にすぎない。「宗教団体がスペシャリストであることはよく理解しているが、それは宗教の分野であって、採掘の分野ではない」とジャミル氏は述べた。彼によると、宗教団体が採掘許可を取得した場合、他の事業者を管理する立場になる。つまり、宗教団体はその成果を受け取るだけだ。「採掘管理会社には独自のコネクションやネットワークがあり、必ずしも宗教団体が関与するわけではない」

宗教団体によって採掘が管理されてもその破壊力は変わらない、と彼はいう。マイニング・アドボカシー・ネットワークの研究によれば、鉱業は常に社会に悪影響を及ぼす。「どこで採掘をしようと、コミュニティの生活空間、住民の水源、森林区域、全てがコミュニティの生活に深く関わってくる」採掘は破壊的で有害である、彼は述べる。採掘のプロセスは、採掘機器の運搬から始まり、石炭採掘は次々に位置を変え、そして紛争を引き起こす。コミュニティ内、コミュニティと採掘会社および許可を与える政府など、さまざまな対立(コンフリクト)が生じる。「宗教団体が採掘の管理者として参入すると、対立(コンフリクト)は多面的なものになる。宗教団体がコミュニティと対立する可能性があり、これは非常に危険なことだ」とジャミル氏は語った。

バタンハリ県バティン第24郡の炭鉱。以前はアナック・ダラム〔リンバ人とも呼ばれる〕の領土であった。(写真:テグ・スプライトノ、モンガベイ・インドネシア)

法的リスク

ムハマディヤ中央指導部にある「知恵と公共政策委員会」天然資源政治部門のワフユ・プルダナ委員長は、ムハマディヤを含む宗教組織に対する採掘業のオファーによって、組織の誠実さ(インテグリティ)がさまざまな側面から試されている、と語った。

プルダナ委員長は、ムハマディヤがIUP(採掘事業許可)を受諾した場合、組織とその指導者らには重大な法的リスクが生じる、と言う。宗教団体にIUPを付与する政策方針は鉱物・石炭法2020年第3号では規定されておらず、複雑で高リスクな法的影響を及ぼす可能性がある。

さらに、プルダナ委員長は「上位の法律は下位の法律に優先される」(lex superior derogat legi inferiori)の原則から、より下位にある規定では上位の規定に代わることはできない、と述べた。したがって、この政策方針は訴訟において効力が弱いと考えられる。「実際、この採掘という文脈において、ムハマディヤは過去数年間、とりわけ鉱山規制のガバナンスについて政府に多くの意見を提供してきた。もしそれが採用されているとしたら、組織は傷のある規制ガバナンスの作成に寄与していることになる」と彼はいう。

サンガ・サンガ郡の住民は団結して採掘に反対している。彼らは起きてしまった破壊に激怒している。(写真:ザイヌリ)

プルダナ委員長は、採掘管理者は「作業・予算計画書」(Rencana Kerja dan Anggaran Biaya : RKAB)を毎年作成することが義務付けられていた、と強調する。しかし、鉱物・石炭採掘事業活動の実施に関する政府規則2021年第96号の改正に関する政府規則2024年第25号により、同ルールは作業・予算計画書の調査期間中に一度だけ適用される。〔従来のRKABは調査段階と生産段階を合わせた計画を毎年作成するものであったが、改正により、1年間有効な調査段階計画と3年間有効な生産段階計画とに必要手続きが分割された〕

「この作業・予算計画書はもちろん、企業が環境保護の取り組みに備えるよう監督するために設定されている。その備えは、作業・予算計画書から確認することができる」彼は、政府規則2024年第25号の施行以前、作業・予算計画書の内容が不十分であったために採掘事業許可約2,000の取り消しがあった、といった過去の事例を挙げた。

このため、もし私たちがこのような問題に気を払わなければ、ムハマディヤを含む多くの団体が、政府規則2024年第25号が現れた時に実際に何が起きたのかという事実を曖昧にしようとする考えに囚われてしまうだろう。採掘許可を受諾することによる政治的リスワ(賄賂行為)の危険性もある。政府規則2024年第25号には、採掘取引期間は5年間のみという条項がある。

さらに、プルダナ委員長いわく、採掘業には環境上のリスクや住民との対立、人権侵害の可能性がある。これは、環境の持続可能性とコミュニティの権利を守ると言うムハマディヤの原則に反する。これはムハマディヤとその関連団体のさまざまなパンフレットや文書に明記されている。「ムハマディヤは幾度となく市民を支援してきた。〔金採掘場がある〕トレンガレックはその一つである。自治体の首長だけでなく、若者、ナフダトゥル・ウラマーの多くの同志、カトリックも大規模な金採掘のコンセッションを拒否している」

東南スラウェシ州、北コナウェ県にあるニッケル採掘地帯は海洋汚染を引き起こし、周辺コミュニティに影響を与えている。(写真:WALHI南スラウェシ)

ムハマディヤ・緑の革命家(Kader Hijau Muhammadiyah: KHM)トレンガレック支部のトリグス・D・スシロ氏は、採掘業からは繁栄を想像できず、大惨事が予見されると述べた。彼はカリマンタンのとある採掘場で働いた経験があり、そこで彼は採掘業がどのようなものなのかを目の当たりにした。採掘は景観(ランドスケープ)を損なうだけでなく、ギャンブルや性風俗といった不道徳をもたらす。

「繁栄の想像は社会的分裂を生む。その具体例が、今のムハマディヤで起きていることだ。政府からの採掘許可をめぐってムハマディヤ内の意見が割れている」とスシロ氏は語った。ムハマディヤ中央指導部「環境議会」のヘニン・パルラン副議長は、政府の採掘許可を受諾するというムハマディヤの決議に失望した。彼女はこの決議がさまざまな検討を経たものであることを望んでいる。

「私が意味する検討とは、炭坑に入った子供を亡くした42人の親に会いに行き、採掘のために子供を亡くした親たちの痛み、そしてかれらの胸の裂けるような話や溢れ出す感情に耳を傾けることであり、決議を下した人たちがそのように検討することを願っている」とヘニン副議長は文書にて語った。彼女はムハマディヤ・エコビネカ・プログラムのディレクターでもある。

ニッケル採掘による森林破壊について抗議行動をするトブロ・ダラム〔トブロ人〕(2022年9月、写真:クリス・ブルスラン、モンガベイ・インドネシア)

彼女は、採掘は景観を損なう多くの穴をつくり、回復されることなく放棄される、と述べた。

「彼らが既に住民たちとこの採掘場を訪れて、近所で礼拝もして、ともに自然のオーラと叫びを感じていたらよいのだが。(ムハマディヤが)ムハマディヤに所属する医師を招き、採掘場周辺の住民の健康状態や母子への影響度などをチェックすることを願っている」とヘニン副議長は語る。

「何百もの大学が、環境と科学知識、そして当然環境の持続可能性と次世代の未来を考慮した分析を行うことで〔この問題に〕取り組んでいることを願う」採掘許可を拒むムハマディヤの団員たちを高く評価するというヘニン副議長は、「ともすると私たちはよく世間知らずと呼ばれる。しかし、人生とは選択することである。良心と協調性に基づく判断を行うことで、私たちは幸せになれる」と語った。

東ジャワ州トレンガレック県 ワトゥリモ郡ドゥク村の住民たちは自分達が住まう地域にて計画されている金採掘対して抗議行動を実施した。(写真:A・アスナウィ、モンガベイ・インドネシア)

翻訳:中鉢夏輝

出典:”Terima Izin Tambang, Muhammadiyah Masuk ke Bisnis Perusak Bumi,” Mongabay (Bahasa Indonesia, 28 July 2024)

サムネイル画像:ナフダトゥル・ウラマー本部(ジャカルタ)とムハマディヤ本部(ジョグジャカルタ)(翻訳者撮影)


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