マルワーン・ビシャーラ「織り合わされた闘争:気候危機の逆説とパレスチナの逆説が出会う」


『アル=ジャズィーラ』2023年10月5日

パレスチナの解放のための闘いと気候正義のための闘いはこれまで、互いに織り合わされてきた。文字通りの意味でも、比喩的な意味でも。哲学においても、具体的な成り行きにおいても。どちらの運動も勢いと広範な国際的支持を獲得しつつある。しかし同時に、差し迫った現実に直面して、運動の参加者たちは時計の針に逆らって進んでいるように感じてもいる。

今日のパレスチナ人たちは、イスラエルのアパルトヘイト政権による度合いを増しつつある抑圧、そして重大な人権侵害に晒されつづけているのみならず、ゆっくりとその姿を現しつつある気候災害にも直面している。イスラエル自身による気象学研究によれば、東地中海地方は、気候危機にたいして地球上でもっとも脆弱な場所のひとつに数えられる。世界全体の気温が産業革命以前の時期から平均して1.1℃上昇したのにたいして、イスラエル/パレスチナの平均気温は1950年から2017年のあいだに1.5℃上昇した。そして今世紀の終わりまでに4℃上昇すると予想されている。

もう少し広く中東地域をみても、状況は似たようなものだ。気温は世界のほかの地域に比べてほとんど二倍の早さで上昇しており、その地域に暮らしているおよそ4億の人々の健康と安寧に、甚大な影響を与えている。中東の大半の国々がパリ気候協定に加盟しているにもかかわらず、これまでのところ、その指導者たちは協定で交わされた約束の実行を怠りつづけている。しかも、国際的な需要が高まっているなかにあって、中東の産油諸国は化石燃料の生産を増加させつづけている。アラブ首長国連邦は、今年のドバイでの気候会議(COP28)の議長として、国営石油会社のトップを指名することを選んだ。こんなことは、悲劇というのでなければ喜劇とでもいうほかない。

しかしながら、気候変動にたいする中東の指導者たちの行動がいかに欠如しているにせよ、あるいはそれがいかに厄介なものであるにせよ、そんなものはその対岸で西側の指導者たちが見せている偽善に比べたら、霞んでしまう。

『ニューヨーク・タイムズ』紙で最近出されたデヴィッド・ウォレス=ウェルズのオピニオン記事は、気候変動に関して現在のアメリカ合衆国の指導部がとっている聖人ぶった態度の偽善性を簡明にあばいているが、そこで強調されているのは、2050年を超えて予定されている化石燃料の拡張のうち、三分の一以上がアメリカに責任があるという事実だ。「バイデン大統領が熱心に気候変動を〈生存をめぐる脅威〉と呼び、気候保護部隊の設立を宣言するさなかに」とウォレス=ウェルズは説明する、「アメリカ合衆国は石油生産の新記録を更新した」。

こうした偽善性は、富裕な(そして軍事的な力をもつ)西側の諸国家がパレスチナの悲劇にたいして長期間にわたりとってきた態度を、完璧に反映している。平和を説きながらパレスチナでのアパルトヘイトに資金を拠出しているまさにその国々が、いかに自分たちが気候危機の緩和に貢献しているかを敬々(うやうや)しく告白しているが、かれらは(中国やロシアやインドといった同輩たちとともに)世界のCO2排出量が歴史的な高みに達するのに手を貸しているのだ。

実際のところ、西側の諸国から聞こえてくる「気候正義」という高尚な約束は、残念ながら「パレスチナの正義」への約束とおなじくらいに中身がないことが証明されてきた。どちらのケースにおいても、こうした国々は言うことだけは言うが、実際にその道を歩くことは拒んでいる。そして、自分たちの過剰と偽善のつけを、貧しく脆弱なコミュニティに払わせつづけている。

さらにどちらのケースでも、かれらは不適切かつ逆効果のメカニズムを考案・実行しながら、自分たちが「助ける側」なのだと演出しようとしている。気候変動に関しては、かれらは「カーボン・オフセット」や「カーボン・クレジット」といった詐欺的な概念を考え出し、意味のある行動や、公正で迅速な再生可能エネルギーへの移行をしなくて済むようにしている。パレスチナに関しては、かれらは機能しない「和平プラン」を発明したが、それはパレスチナへの抑圧を深めることにしか役立っていない。そのあいだもイスラエルは、本来そうすべきように占領という根本的な問題それ自体に向き合うことはしないまま、占領下のパレスチナ人の生活を「改善」する試みを行っていると自称してきた。

おなじくらいに皮肉なのは、「環境の保護」を口実にしてパレスチナ人の土地を押収するというイスラエルによるお決まりの試みだ。「緑の植民地主義(グリーン・コロニアリズム)」として知られるこうした戦術は、パレスチナの先住人口を避難させその資源を搾取することを目的とした、イスラエルによる環境主義の簒奪(さんだつ)を見事に明らかにしている。イスラエルの「緑の地帯(グリーン・ゾーン)」はまずなによりも、土地の没収を正当化し、難民となったパレスチナ人たちの帰還を妨げることを目的として作り出された。アパルトヘイトの体制という要塞を、築きつづけることを目的として。

ここ数年にわたって、気候危機にとりくむ運動はその科学的な出自を超え出て目標を拡張し、正義のための闘争へと姿を変えてきた。イスラエルの日刊紙『ハアレツ』が2021年の記事で説明しているように、ここにこそ世界中のあまたの環境団体が公的にパレスチナの大義への支持を表明してきた理由がある。現在、気候正義運動はたんに気候変動を緩和する行動を呼びかけるだけではなく、危機を永続化させている社会構造を根本から転換することもまた呼びかけており、社会的平等、分配的正義、そして天然資源の管理といった諸問題に取り組んでいる。パレスチナでそれらが取り組まれているのと同じように。

実際のところ、自らの土地と資源を管理する権利を否定することによって、イスラエルはパレスチナ人たちが気候危機によって受けるリスクをさらに悪化させ、かれらを気候変動に由来する災害に対してより脆弱にしている。イスラエルが60%以上の土地を統制している占領下の西岸地区では、パレスチナ人の土地と水が組織的に盗用・破壊されており、その結果としてどんな事態が起こっているかといえば、60万人の入植者が、290万人の西岸地区のパレスチナ住民の6倍の量の水にアクセスし消費することが可能になっているのだ。

イスラエルによるグリーンウォッシュの努力が典型的に表れているのが、約11%の土地を統制し、パレスチナのユダヤ化において中心的な役割を担っているユダヤ民族基金(JNF)だ。『ハアレツ』紙が報道しているように、「JNFは自分たちを気候変動と戦う闘士として演出しようとしているが、それは茶番だ。その環境への貢献は、人種主義(レイシズム)と狡猾な取引という泥にまみれている」。イスラエルが何十万本というパレスチナ人のオリーブの樹を引き抜くことで、JNFが輸入された樹木を植えられるようになり、それによってパレスチナ人の存在のあらゆる痕跡がぬぐい去られる。こんなことは環境にやさしいどころかエコサイドであり、一点の曇りもない犯罪行為だ。

イスラエルのアパルトヘイトは多くの点において、人種主義と恐怖、暴力と不平等に呪われたこの世界の縮図でありつづけてきた。そして最後の日、あるいは最後の日々に、グローバルな温暖化は、まさにイスラエルのアパルトヘイトがそうしてきたように、人種や地位に関係なくすべての者をひきずり倒すだろう。私たちは協力してともに生き残るか、さもなくば全員で地獄に落ちるかだ。

(翻訳:中村峻太郎)

出典:Marwan Bishara, Interwoven struggles: The green paradox meets the Palestine paradox, Al Jazeera 5/10/2023.

ⒸAl Jazeera, used by the permission of the author.

画像:Hossam el-Hamalawy حسام الحملاوي, CC BY 2.0

<https://creativecommons.org/licenses/by/2.0>, via Wikimedia Commons


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