反採掘闘争を成功させたパナマの活動家たちが、テロリズムの罪で訴えられている
『トゥルースアウト』2024年1月19日
パナマ、チリキ県の山地の町ボケーテで行進する抗議者たち。MICHAEL FOX
ダマリス・サンチェス(Damaris Sánchez)は、パナマ西部の丘陵地帯からやってきた物腰やわらかな環境活動家だ。彼女はチリキ県のティエラス・アトラス(ないし「高地地帯」)に位置するセロ・プンタと呼ばれる地域に住んでいる。パナマに唯一存在する火山の裾野で生まれ育った。彼女の家族は、この地で何世代にもわたって農業を営んできた。彼女はまた、「水を守るパナマの国民ネットワーク」(Panama’s National Network in Defense of Water)の調整委員でもある。
「私の一家は、私が幼いころから、バルー火山国立公園と密接なつながりを持ってきました」と彼女は『トゥルースアウト』に語った。「私たちは、そこがまだ公園にはなっていなかったときから、そこに畑を持っていました。そのあたりで仕事を始めた私の父はいまでも、自分たちがどんな風にその地域の畑を作り上げてきたのか、話して聞かせてくれます」。
サンチェスは53歳だ。黒い髪をきっちりと後ろで束ねている。眼鏡に、灰色のセーター。自分が関心を寄せている物事について話すときの語り口は、明確で情熱的だ。つまり、地元のコミュニティについて、土地、水、そして環境について話すとき。
「私の一家の子どもたち――私の世代のことですが――は、土地へのケアの別の面に目を向け、環境を守ることになんとか貢献しようとしてきました」と彼女は言う。
サンチェスは、昨年の後半にパナマ各地を封鎖し、11月に中央アメリカ最大の露天掘り銅山の契約撤回を政府に強いた反採掘の抗議運動において、中心的な声となった人物だ。
そしていま、彼女は法廷に連れていかれつつある。
彼女はチリキ県西部においてテロリズムの罪で非難されている21人の一人であり、全国各地で告訴を受けているおよそ30の人々の一人だ。活動家たちに対する訴訟は、パナマの社会運動のリーダーたちが「前例のない犯罪化の波」と呼ぶものの一部だ。それは、最近数か月にわたる全国的な抗議運動のあいだ、警察による抑圧がひろく浸透したことを背景に起こっている。
「彼らが人々に伝えようとしているのは、こういうことです。よし、今回はお前たちの勝ちだ。だが次回は、お前たちが路上に出ることすら許すつもりはない。そうする者はだれであれ、起訴され犯罪者にされることになるからだ」と、サンチェスは語った。
さまざまな抗議運動
抗議運動は[2023年]10月23日、パナマ議会がカナダの企業「ファースト・クウォンタム・ミネラルズ」社とのあいだの新しい採掘契約を認可した3日後に開始された。ラウレンティーノ・コルティーソ大統領は、たった数時間の審議ののちに法案を成立させる署名をしたのだ。
パナマ政府は新たな契約を称賛し、それによって生み出される利潤が国家に転がりこむだろうと述べた。コルティーソはその資金を使って社会のセキュリティシステムを下支えし、年金の手当てを改善することを誓った。
「その契約で保障されているパナマ国家への支払いは、2022年については3億9500万ドル、そしてその後20年間は毎年最低でも3億7500万ドルです」と、通商大臣のフェデリコ・アルファーロは現地のニュース放送局に当時伝えた。「これまでパナマ国家が受け取ってきた額からすれば――それは年間3500万ドルでしたから――著しい改善です」。
ファースト・クウォンタム・ミネラルズ社は、コーブレ・パナマ鉱山(Cobre Panama mine)での操業を2019年に開始し、以後毎年およそ30万トンの銅を採掘してきた。その鉱山はパナマの輸出の75パーセント、そしてGDPの5パーセントを占めている。
それでも、パナマの人々が臆することはなかった。かれらはその契約が外国企業への貢ぎ物であり、パナマの主権への攻撃なのだと述べた。20世紀の大半をかけて、パナマ運河地帯からアメリカ合衆国の支配を取りのぞこうと闘ってきたこの国で、その鉱山契約は大きな社会問題となった。
パナマの人々はまた、鉱山がみずからの国の自然環境に、そして悪化しつつある旱魃のただなかで、地下の水に悪い影響を与えるのではないかと懸念していると述べた。
「私たちは、自分たちの環境を守るために死ぬまで闘うつもりです。なぜなら、ここパナマでは、環境を失ってしまったら、私たちもまた存在しないのと同然だからです」と20歳の学生であるジュレイシ・バルガス(Yuleysi Vargas)は『トゥルースアウト』に語った。彼女もまた、パナマ・シティの路上にくりだした数千の人々の一人だった。
労働組合、学生、教師、そして先住民グループの数々が国じゅうを行進した。三十以上のパナマの社会運動グループや環境運動グループからなる、全国規模の反採掘運動〈パナマに鉱山は要らない〉(Panamá Vale Más Sin Minería)が行進を先導した。かれらはパナマの一部を外国企業に明け渡したことで政府を非難し、契約が取り消されるまで路上に残りつづけると宣言した。そしてその言葉を守った。
抗議者たちは、国じゅうの道路で障害物を積み上げた。かれらはパンアメリカン・ハイウェイの大半の部分を封鎖した――国の東西にはしる主要な高速道路を。製品や商品の海運も、バリケードによって妨害された。パナマ・シティでは、野菜や農産品が店の棚から消えた。ボカス・デル・トーロやチリキの州では給油所が枯渇し、それからプロパンガスが枯渇した。日用品店の棚は空っぽになった。学校の授業は中止になるか、オンラインに移行した。
ボケーテの道路を封鎖する抗議者たち。MICHAEL FOX
MICHAEL FOX
ダマリス・サンチェスの住む、チリキ州ティエラス・アトラス地域の抗議者たちは、一貫して強力だった。かれらは一か月以上のあいだ、救急車や緊急サービス以外のいかなる車両に対しても、自分たちの高速道路封鎖の通過を許さなかった。
「もしこの多国籍企業が、パナマからこうした特典や利益をすべて得ることが可能になったとしたら、どういうことになるでしょうか? バルー火山国立公園でも、その他の国内のどの場所でも、そこに埋蔵している地下資源にまた新たな多国籍企業が関心を示したとき、それを止める方法はまったく無くなってしまうでしょう」とサンチェスは語る。「私たちが言ったのはこういうことです。もし今これを止めなければ、将来にわたって、パナマでの鉱物採掘の他のどんな計画も止めることができなくなるだろう。だからこそ私たちは行動を起こしたのです」。
かれらが最終的に道路封鎖を解除したのは、最高裁判所が11月28日に画期的な判決を下し、新しい採掘契約が憲法に違反すると宣言したあとのことだった。
MICHAEL FOX [プラカードには、〈パナマの価値は銅ではなくて金〉の文字]
MICHAEL FOX
大打撃を受けた企業活動
パナマの企業部門のメンバーたちは、抗議運動の最初の四週間だけで、道路封鎖のコストが国全体で17億ドルに上ると述べた。ローカルなレストランやホテルや商業は大きな打撃を受けてきた。
「私たちパナマ人は非常に困難な状況に置かれています。国全体で広がっている道路封鎖のせいです」と、中小企業オーナーであるハビエル・アントニオ・ピンソンは11月半ば、まだ抗議が始まってひと月も経たないころに『トゥルースアウト』に語った。彼はチリキの山岳部の町であるボケーテに、レストランとホテルを所有している。その地域では、観光のハイシーズンが始まろうとしていたところだったが、抗議と道路閉鎖によって、一日に数人の客しか訪れなくなっていた。ホテルのゲストもいなくなり、予約もなくなった。
「私たちは露天掘り鉱山に賛成していませんし、交渉されていた契約にも賛成していません。しかし、こうした道路封鎖もまた、支持できません」と彼は語った。「いまこの瞬間も、チリキ県ではガスが止まっています。プロパンもです。農業部門は、収入がなくなっています。農業部門の損失は計り知れないものです。そして観光業にも非常に大きな影響を与えるでしょう。例えば、こうした抗議が国際的にもたらす悪評の影響によって」。
チリキ県ティエラス・アトラスの商工会議所が主体となり、ダマリス・サンチェスおよびチリキ県に住む他の20人に対して刑事告訴が行われた。
「諸々の権利および公正な解決策の探究を擁護するという堅固な立場から、私はティエラス・アトラスのあらゆる会社、企業、事業家に対して、この非常に重要な取り組みに加わることを呼びかけます」と商工会議所の座長であるマール・ガルベスは語った。「私たちが一致協調すれば、法の支配を強化し、私たちの国の秩序を保つことができます。そのことが私たちのコミュニティと経済の繁栄および安定にとって、なによりも重要なのです」。
かれらが活動家たちを訴えた罪というのは、経済的資産に対する犯罪、器物損壊、集団的安全に対する犯罪、テロリズム、そして不法な結社だ。
空になったボケーテの給油所のわきを行進する抗議者たち。MICHAEL FOX
『トゥルースアウト』は刑事告訴状のコピーを綿密に調べた。そのなかで、ティエラス・アトラス商工会議所の法律家たちはこう書いている。政府に鉱山との契約を解消させるべく、「かれらは組織化されたやり方で、公共の平安を攪乱し、ティエラス・アトラスのコミュニティを恐怖によって脅迫しようと共謀した」。
パナマの法律の専門家たちが述べているように、とりわけこの「不法な結社」の罪というものは、歴史的にみて、地域一帯の諸政府が、社会的な抗議を犯罪化することを目的に用いてきたものだ。
抗議を犯罪化する
「こうした犯罪化は、抗議者たちを罰しようというパナマ政府の思惑にほかなりません」と社会学者・ジャーナリストで、長年にわたるパナマの人権活動家であるセリア・サンフル(Celia Sanjur)は語った。「かれらは人々を罰する方法をさがしているのです。人々を罰し、そして何より、かれらが二度とそれをしないように恐怖を与える方法を。しかしそうした試みは成功しないでしょう。人々は政府が望んでいることを理解しているからです」。
サンフルによれば、とりわけチリキで商業家たちや政府が行おうとしているのは、「道路封鎖のような抗議は許容されないという、はっきりした標識を立てること」なのだ。「そんなことをすれば罰が与えられるのだと言って」。
「そしてだからこそ、私たちはかれら[告訴されている人々]に対して、自分たちにできるかぎりの連帯を示さなければならないのです」と彼女は語った。
いくつものグループが、そうした呼びかけを受け止めてきた。〈パナマに鉱山は要らない〉運動は、犯罪化を糾弾し、訴訟の不正義についての言葉を広めることに力を貸してきた。そしてまた、訴えられているメンバーの何人かについて、法的な弁護という支援も行っている。
リリアン・ゲバラ(Lilian Guevara)は、パナマの反採掘運動のメンバーであり、パナマ・シティを拠点に全国の環境問題に取り組むNGO〈パナマ環境アドボカシーセンター〉の理事でもある。オマール・トリホスの独裁と、それに引続く1980年代のマヌエル・ノリエガの独裁からこのかた、この国では「こうした類の社会運動のリーダーたちの選別的な犯罪化を目にしたことはありません」と彼女は言う。
「いまやこれらの[企業部門の]人々が、具体的な罪科の指定はどうあれ、かれらを刑事告訴しています。かれらは非常に傑出した人々で、社会的な闘争、人権の擁護、環境の保護に関して、歴戦のキャリアをもっています。教師たちもいます。テロリズムや違法な犯罪的結社という罪を着せるのに、かれらほどふさわしくない人々もないでしょう」と彼女は語った。
この問題は、注目を集めつつある。12月半ば、何人かのパナマの法律家や法学教授がパナマ法務局(Office of the Attorney General)と面会を行い、とりわけ犯罪化の水準について、懸念を表明した。著名な憲法学の教授であるミゲル・アントニオ・ベルナル(Miguel Antonio Bernal)は、これほどの憂慮とともに面会を終えたことはない、と語る。
「実際のところ、裁判所であれ法務省であれ、私たちが対面した職員たちはみな、人権とは何か、そして公的機関としての自分たちの義務は何なのかといったことに関して、許しがたい無知の状態にあり、それを恥じることがありません。とりわけ法務省(Public Ministry)の義務とは、[人々を]尊重することであって、迫害することではありません」と、ベルナルは現地のテレビ放送局に語った。「デモや抗議活動に参加する人々が犯罪者にされるような社会で生き続けることは、私たちにはできません」。
パナマの企業部門は、国じゅうで抗議運動や道路封鎖が続くのを許していることで、そして路上からそれらを排除する手を強めないことで、コルティーソ大統領を非難した。しかし、パナマ・シティおよびその周辺では、国家権力による路上の抗議者たちへの弾圧は[すでに]激しいものだった。
催涙ガスが立ち昇るなかパナマ国旗を振って進んでいく抗議者。PEDRO SILVA
警察による抑圧
抗議運動の最初の二、三週間で、千人以上の人々が逮捕された(破壊活動のために逮捕された者もいた)。
「抑圧は日常的なものでした」とゲバラは語る。「とりわけ首都に住む何万人もの若い人々に対しては。パナマ大学では、学生運動に対する妨害が毎日欠かすことなく行われました。パナマ東部のパコーラのようなコミュニティでは、妨害と催涙ガス弾による攻撃がありました。警察による不釣合いな規模の対応があったのです」。
パナマの公安部隊が抗議者の一団を見守る。PEDRO SILVA
一列に並んだ警官隊のまえに立つ抗議者。PRDRO SILVA
反採掘抗議運動の最初の数週間で出回った数えきれないSNS上の映像が写しているのは、何発もの催涙ガス缶が速射砲で群衆に撃ち込まれる様子であり、警察がゴム弾によって抗議者たちを押し戻そうとしている様子だ。
写真家・環境活動家のアウブレイ・バクステル(Aubrey Baxter)は、10月のある抗議のさなか、警官によって直射軌道でゴム弾を何発も発射され、片目を失明した。抗議中にゴム弾で頭部を撃たれたのは、彼ひとりではなかった。
攻撃の直後を写した映像では、彼は地面に座り込んでおり、顔とシャツは血で覆われている。
私は12月にパナマ・シティの公園でバクステルに会った。いま、彼は眼帯をつけている。外科手術を受け、何人もの医師や療法士に会ってきたところだった。彼はいまなお、片目しかない新たな人生という現実と、折り合いをつけようとしている最中だ。
「それを言葉にしてみようとすることもできます。でも[結局]そんなことは不可能なのです。それを実感することは、また別の何かです」と彼は語る。「障害を負わされるということを」。
アウブレイ・バクステル、パナマ・シティ公園で撮影。抗議のさなか、警官にゴム弾を直射軌道で撃ち込まれたことで片目を失明した。MICHAEL FOX
バクステルは、かれら抗議者たちが止めようとした鉱山と、かつてなく深い結びつきを感じていると語る。
「地面に切り開かれた露天掘り坑の図像を目にするたびに」と彼は言う「私自身の姿が目に浮かびます。目を失った私の姿が」。
警察当局は、バクステルの目を襲った衝撃の責任は自分たちにはないというメッセージを発し、そのかわりにそれを暴力的な抗議者たちのせいにした。バクステルは当局に対して刑事告訴を申し立てている。
「私たちが求めているのは正義です。この事件が不処罰のままで終わらないように。私のと同じような事件が、不処罰のままで終わらないように」と彼は語る。「そして、人々の人権を尊重するという前例を作り出すために」。
「私は片目を失いました。だけどこの国はその眼を開きつつあります」と彼は言う。「そしてある意味で私の事件は、人々が団結するのを助けたようにも感じています。他者に害を与えることを許さないという意味でです」。
四人の人々が抗議の最中に殺害された。二人は、道路封鎖を通ろうとして怒りに駆られた運転手によって射殺された。別の一人は、チリキのパンアメリカン・ハイウェイの封鎖中に轢き殺された。ダマリス・サンチェスらが道路封鎖を行った州だ。
路上での堅固な意思にもかかわらず、そして採掘契約は憲法に違反すると宣言した最高裁判所の判決にもかかわらず、ファースト・クウォンタム・ミネラルズ社および鉱山に関係する外国企業らは、パナマに対価を支払わせようと画策している。ファースト・クウォンタム・ミネラルズと他の二つの外国企業――プロジェクトに投資している韓国の鉱山会社と、鉱山とのあいだで貴金属の物流取引を行うまた別のカナダ企業――は、鉱山契約の解消に関して、仲裁手続き(arbitration proceedings)を取るようパナマに警告する通知書を提出した。
南半球のあちこちで、鉱山企業はこうした仲裁の脅迫を主要な手段として用いることで、諸国家に[契約解消を]思いとどまらせ、ローカルな政策や意思決定に影響をおよぼしている。こうした仲裁聴取の結果、想定される利益損失の支払いとして、パナマ国家が何百万ドルもの金額を外国企業に支払う羽目になるということもありうる。しかし仲裁の手続きは、何年もかかることがめずらしくない。その判断は、閉ざされた扉の向こうで、パナマの外側で、そしてパナマ国家による主張の権利すらなく行われる。
「今日の〈貿易〉協定は、訴訟によって、[たった]三人の企業弁護士団の面前に諸政府を立たせることができるという、新たな権利を多国籍企業に与えている」と消費者アドボカシー団体の〈パブリック・シティズン〉が、こうした類の仲裁聴取手続きについて書いている。「こうした企業弁護士たちは、国家の政策が企業の権利を侵害しているとして、納税者たちによって支払われる金額を際限なく企業に恵んでやることができる。たとえば、期待された将来の利益の損失分として」。
言い換えれば、かれらと闘うことは非常に難しい。パナマの反採掘の活動家たちは、自分たちにできることは何なのか、決断を下そうとしている。と同時に、サンチェスのような活動家たちは、自分たちに向けられた告訴と闘うために、必要なことは何でもするつもりだと言明している。
「パナマという一国のレベルにとどまらず、ラテンアメリカの全体で、多国籍企業はきわめて強力な影響力を持っています」とサンチェスは語った。「ここパナマでの採掘問題の前進は、とてつもなく大きな跳躍です。なぜなら、こんな小さな国がこの種の勝利を収めるということなど、だれも予期していませんでしたから」。
(翻訳:中村峻太郎)
※スペイン語の表記に関して、東京大学人文社会系研究科(現代文芸論)の藤井健太朗さんにご指導をいただきました。記して感謝いたします。
©Truthout, reprinted with permission.