遮断へのルート:サプライチェーンの破壊活動とイスラエルによるガザへの戦争
『MERIP』311号(2024年夏号)
原文リンク:https://merip.org/2024/07/routes-to-disruption-supply-chain-sabotage-and-israels-war-on-gaza/
10月7日以来、軍事目的のジェット燃料(JP-8)を載せた船舶が少なくとも三隻、アメリカ合衆国からイスラエルに到達し、(いまでは九か月以上にわたって)ガザでの大量殺戮を行っている戦闘ジェット機とアパッチ・ヘリコプターに動力を与えてきた。
それぞれの船舶は30000バレルの燃料――戦闘ジェット機の補給を1万2000回行うことができるだけの量だ――を搭載していた。この船舶輸送は、2020年にアメリカ国防兵站エネルギー局(Defense Logistics Energy Agency)が発行した30億ドルの契約の一部で、その契約は数年分のイスラエルへの供給をカバーする10憶リットルのJP-8をめぐるものだった。今年の三月、〈オイル・チェンジ・インターナショナル〉と〈データデスク〉の調査レポートは、契約の保有者がバレロ・エナジー社(Valero Energy)であることを明らかにした。世界中に15の石油精製施設をもち、ジェット燃料とディーゼルのアメリカ軍への最大の提供者であるアメリカの企業だ。レポートが追跡した燃料の輸送ルートは、テキサス州コーパス・クリスティ(Corpus Christi)のバレロ・エネジーの精製施設に始まり、大西洋を渡り、ジブラルタル、クレタ島、シシリア島、キプロス島を通過し、最後にはイスラエルのアシュケロン(Ashkelon)石油ターミナルに着船する。燃料を載せたタンカーにはアメリカ国旗が掲げられており、[その船舶が]アメリカの主権の海への拡張であることを効果的に示していた。
JP-8は民間用のジェット燃料の軍用版で、 腐敗防止剤と防氷添加剤が加えられたものだ。それは石油とガスの企業によって、特殊な精製プロセスを通じて生産される。すべての国がそれを生産する能力のある精製施設を持っているわけではないが、イスラエルは持っている。2022年だけで、ハイファ湾(Haifa Bay)とアシュドード(Ashdod)に位置する二つの精製施設が、124万8000トンのジェット燃料を生産した。しかしこの生産能力にもかかわらず、イスラエルは依然として、ジェット燃料の主たる供給をバレロ・エナジーや(かつては)エクソンモービルといったアメリカ拠点の石油・ガス企業に依存している。
イスラエルがJP-8の輸入に依存していることで、国境横断的な燃料の船舶輸送は、イスラエルの戦争機械に対する明白な梃子入れの支点となっている。実際に、サプライチェーンの破壊活動や労働者による封鎖行為は、歴史的に見て、抑圧的な体制や帝国主義のプロジェクトを維持する物質・資本・人間の流れのなかに、戦略的な狭窄部を作り出してきた。たとえば、南アフリカのアパルトヘイト政権に対抗する民衆運動は、エネルギー企業やエネルギー・インフラを頻繁に標的にしてきた。1970年代にグローバルサウスの国々が石油の制裁を行うと、南アフリカのアパルトヘイト政権は、その石油輸入を維持するために、ブリティッシュ・ペトロリアム社[BP社]やシェル社のような石油企業に向かった。それに応える形で、反アパルトヘイト運動はシェルの倉庫を標的にピケを張り、石油ステーションを封鎖し、シェルの株主総会に参加して「アパルトヘイトに燃料を与えるな(No Fuel for Apartheid)」と要求するバナーを掲げた。1962年、サンフランシスコのベイエリアの港湾労働者たちは、黒人の南アフリカ人に連帯する立場をとり、11日間にわたって同国からのいかなる船荷も積み降ろしを拒絶した。
パレスチナ[支援]の活動家たちは、こうした戦術から学んできた。2014年と2021年、アメリカの太平洋側における〈ブロック・ザ・ボート〉運動(Block the Boat)は、パレスチナの活動家やブラック・ライブズ・マターの抗議者たち、そして港湾労働者の労働組合を招集して、イスラエルの船舶企業ジム社(Zim)に対する封鎖を行った。2021年にはまた、南アフリカとジェノヴァの港湾労働者たちが、イスラエルのジム船の荷降ろしを拒絶した。
さらに言えば、中東には帝国のサプライチェーン(とりわけ石油やその不可欠なインフラに関して)を遮断してきたそれ自身の豊富な歴史がある。1960年代を通じて、アラビア半島の港湾労働者たちはイスラエルを通過する船荷の積み降ろしを拒否した。1965年には、バハレーン・アラブ石油会社(Bapco)による数百人の労働者の解雇が行われたことで、転覆的な行為――パイプラインの爆破から石油企業のバスへの放火、ヨーロッパ車への投石まで――が噴出した。2011年、シナイ半島のベドウィンの活動家たちは、ガス・パイプラインに火をつけ、エジプトの治安部隊がそれを再開するのを防ぐためにブロックを設置し、四十五日間にわたって供給を切断した。引き続く四年間にわたる同様のアクションによって、シナイ北部からヨルダンとイスラエルに延びるエジプト天然ガス会社(GASCO)のパイプラインは、途切れとぎれのものになった。
パレスチナでは、エネルギー・インフラに対する直接行動は、委任統治期以来の反植民地闘争の手法だ。英国委任統治政府に対する1936年から1939年のアラブの反乱のあいだ、〈赤い手〉(Red Hand)のゲリラ・グループの支持者たちは、キルクーク・ハイファ間のパイプライン――それは英国所有のイラク石油会社(Iraq Petroleum Company)のものだった――の各セクションを、日常的に爆破していた。そのパイプラインは最終的に1948年に解体された。〈赤い手〉の傑出したメンバーであるアリー・クルキー(Ali Khulqi)は、第二次世界大戦中にイルビドの自宅でグループの会合をふたたび招集し、石油パイプラインを襲撃し、電話線を切断することを決定した。[1] 〈赤い手〉は、のちのパレスチナのグループを触発したが、そのなかにはパレスチナ解放人民戦線(PFLP)のゲリラたちも含まれていた。かれらは1967年の戦争のあと、ハイファとナカブ(ネゲヴ)のイスラエルのパイプライン、そしてゴラン高原を通るアラムコ社(Aramco)のトランス・アラブ・パイプライン(Trans-Arabian Pipeline)を標的にした。
今日の国境横断的なエネルギーのルートは、同じように国境横断的な対応を要求している。グローバルな化石燃料産業は、ジェノサイド作戦を遂行するイスラエルの能力から、そしてアメリカのイスラエルに対する継続的かつ無条件の支援から、切り離すことができない。アーダム・ハニーヤ(Adam Hanieh)が書いているように、入植型植民地としてのイスラエルは、中東におけるアメリカの帝国的利害を維持するために決定的な役割を果たした。[2] 誰が、どんな値段で、そしてどの通貨でこの地域の石油を購入するのかを決定するアメリカの覇権は、そのグローバルな権力を維持するために決定的に重要なものだ――前哨地[出先機関]かつ燃料の導管としてのイスラエルの維持がそうであるのと同じように。だとすれば、パレスチナ解放のための闘争が、気候正義のための闘いであり、化石燃料資本主義の解体修理のための闘いであることは明らかだ。
化石燃料とパレスチナのあいだの分かちがたい繋がりは、10月7日以降、新たなパレスチナ人主導のキャンペーンが生まれる動因となってきた。そのなかのひとつが、この記事の著者ふたりも参加している、〈パレスチナのためのグローバルなエネルギー禁輸〉(the Global Energy Embargo for Palestine)だ。このキャンペーンの主張は、あらゆる形態のエネルギー――石炭、原油、ジェット燃料、そしてガス――がイスラエルのジェノサイド作戦に燃料を与え、そのパレスチナにおける入植型植民地主義による占領に資金を与えるうえで、積極的な役割を果たしているというものだ。それは労働者、組合、気候正義グループやパレスチナ連帯グループに対して、イスラエルに出たり入ったりする(軍事的なジェット燃料のような)死をもたらすエネルギーの流れを封鎖し、遮断することを呼び掛けてきた。
2024年2月9日、バレロ・エナジー社のメトリックトン船(MT)〈オーバーシーズ・サン・コースト〉号は、JP-8のジェット燃料の船荷を載せてコーパス・クリスティを出航し、イスラエルのアシュケロンへと向かっていた。その自動船舶識別装置(AIS)は、活動家による探知を防ぐため、出発時には目的地を公開していなかった。大西洋を渡ったあとで、その船舶はスペインの港アルヘシラスに停泊し、引き続きクレタ島のNATO軍事基地であるソウダ湾(Souda Bay)に向かうことになっていた。この船は航海中、その応答機器をオフにしていた。これは国際的な海洋法では違法行為だ。この規則の侵犯によって、イスラエルはヨーロッパの完全な共犯関係のもと、ヨーロッパ海域での作戦時のブラックホールを作り出すことができてきた。イスラエルにジェット燃料を運ぶタンカーの存在が警告されるやいなや、クレタの活動家たちは大急ぎでその船舶に対する行動を計画した。不法居住者の立退きや警察暴力に対して行われていた近隣のデモは、ソウダ湾へと進路を変え、そこで活動家たちはソウダ湾を「ジェノサイドに燃料を与える給油所」として批判する横断幕を掲げた。
そうした動員は、いまのところ、意識啓発の努力にとどまっている。しかし、それはやはり、ジェット燃料の輸送ルートの各地にいる活動家たちを結びつけるより広範なキャンペーンが出現するために必要不可欠なものだ。こうした戦術は、アクティビストで研究者のアンドレアス・マルムが『パイプライン爆破法 How to Blow Up a Pipeline』(Verso, 2020)[邦訳は箱田徹訳、月曜社、2021年刊]のなかで勧めているようなパイプラインの破壊工作の戦略からは逸脱するものかもしれない。しかし国境横断的な行動は、まさしくリスクがより低いという理由で、より広い範囲の関与と参加をもたらしてくれる。それは労働者たちにサプライチェーンに沿って動員を行う機会を提供し、草の根の、下からのエネルギー禁輸のためのありうるプランを与えるものなのだ。
イリア・アル=ハザンElia El-Khazenは、〈ディスラプト・パワー〉および〈パレスチナのためのグローバルなエネルギー禁輸〉のオーガナイザー・研究員。
シャーロット・ローズCharlotte Rose は、〈ディスラプト・パワー〉、〈ウィ・スメル・ガス〉、そして〈パレスチナのためのグローバルなエネルギー禁輸〉のオーガナイザー・研究員。彼女の研究はとりわけ、化石ガス産業と東地中海地方のインフラをめぐる政治を対象にしている。
翻訳:中村峻太郎
出典:Elia El-Khazen, Charlotte Rose “Routes to Disruption—Supply Chain Sabotage and Israel’s War on Gaza,” Middle East Report 311 (Summer 2024).
©Middle East Research and Information Project, reprinted with permission.
画像:George Silk, Public domain, via Wikimedia Commons
[1] “Reading the Papers of Ali Khulqi Al-Shurari,” Dirasat 14/10 (1987), p. 297 [in Arabic].
[2] Adam Hanieh, “Framing Palestine: Israel, the Gulf states, and American power in the Middle East,” tni, June 13, 2024. [アーダム・ハニーヤ(中村峻太郎訳)「パレスチナを枠づける:イスラエル、湾岸諸国、そして中東におけるアメリカ権力」『船と風』2024年8月10日。]