先住民Wet’suet’enの土地をめぐる(長い)闘い
– YINTAH上映会とワークショップ参加レポート
Hanae・ミヤサカ リサ

はじめに
みなさん初めまして、船と風のHanaeです。
先月の土曜日にカナダの管理下からWet’suwet’en(ウェットスェテン)の土地を自治する運動を写した長編ドキュメンタリー『YINTAH(イェンタ)』の上映会とワークショップを個人的に企画しました。
YINTAHは直訳すると「土地」を意味します。
ですがこれは、資源的、資本的な利益を生み出す領土の土地ではなく、木々や、川や、鮭や、その場所に存在するすべての生命と共存し、それによって生かされるという意味が含められた「土地」です。国家や警察、パイプライン建設者らからみるこの「土地」と先住民の彼らにとっての「土地」は全く別のものなのです。
今回のワークショップに参加してくれたLisaと一緒に記事を書くことになったので、前半では簡単にワークショップについてと開催の流れを紹介させていただきます。
まず今回のワークショップは、元々個人的に繋がりのあったFriends of the Earth Japanの職員から、「Wet’suet’enなどの先住民の活動家が来日するから、イベントを開催しないか?」と声をかけていただいたことがきっかけで急ピッチで企画されました。
普段なかなか聞く機会のない、国家権力に頼らずにコミュニティを自治する人からカナダ現地で弾圧される先住民運動の様子などの話を通してぜひいろんな人にもこの問題を知ってほしいという思いで、このワークショップは対話を中心に構成をすることになりました。
前半では、活動家それぞれがCGLパイプライン1の建設と弾圧について、そして彼らが日々生活してるその土地にある日本との共通点2を紹介しました。例えば、鮭を食べる習慣や、海苔を作る文化が紹介されました。その後、YINTAHのショートバージョンを上映しました。
後半では映像とプレゼンテーションに関するディスカッションを行い、最後に先住民コミュニティの自治に関するワークショップを行いました。ワークショップでは、Chief Na’Moks(Wet’suwet’en チーフ/リーダーのナモクさん)からコミュニティ内での自治がどう行われるか、自分たちの法律をどう決めているか、先導者をどう選ぶか、問題が起きた時警察などの国家権力に頼らずどう対応するかを聞き貴重な時間になりました。
それでは、ここからは実際に参加してくれたLisaの感想も交えたイベントレポートにバトンタッチをしようと思います!
ワークショップの内容
「YINTAH上映会とワークショップ」では高円寺にあるナムナムスペースにてウェットスェテンの土地で運動を続ける活動家5人が来日に合わせて2月8日の土曜日に開催された。プレゼンテーションから質問、グループ別のディスカッションにてそれぞれのリーダーたちの思いを聞くまたとない機会となった。というのも、私は1年半前に今はバンクーバーに住んでいる若い活動家との繋がりで「カナダ・ブリティッシュコロンビア州」の先住民族Wet’suet’en(ウェットスェテン)のことを知り、抗議のアクションの一環で金沢市の大手銀行前でCGLパイプライン反対の要望書を提出したことがある。しかしその時もこの案内が来る直前までも、彼らと実際に会えるとは全く思っていなかったので、このワークショップの知らせは私にとって青天の霹靂だった。
ワークショップは定刻を少し過ぎたころに始まり、最初にグラウンドルールを説明した後それぞれの活動家の自己紹介が始まった。参加者は定員の15名ほど、そこにナムナムスペースの運営メンバーが4人ほど後に立っていた形で、部屋の密度も相まって良い(良いというほかない)雰囲気で始まった。
暗転した室内に映し出されたプロジェクターを確認し、前に座る来日した活動家5名の中からウェットスェテンの首長のひとりであるナモクさん(Chief Na’Moks:画像左)は、主に彼らが主とする産業と、自分たちの伝統がどうやって受け継がれているかについてを中心に説明した。
「自分は25年間漁師をやっている。特にサーモンはずっと食べ続けられるようになってほしい、自分たちの重要な産業でもある。そして食卓に並ぶ食べ物をそうして自分たちで用意することは、自ずと伝統の話をすることになり、そうしたことは伝統が受け継がれる機会になる」。
サーモン業はウェットスェテンの人たちにとって重要な生計手段の一つである。しかしここ数年でCGLパイプラインがウィジンクワ(Wedzin Kwa/モーリス川)の下に通されたことで、彼らが飲料水としても生活手段としても使っている重要で神聖な川の水が今、汚染される危機に直面している。

もう一人のウェットスェテンの土地の所有権や権利保護に多く関わる活動家、ジェシーさん(Jesse:画像左から2番目)は、土地の開発や利用にについて「自分たちの中ではハニトー(Hanitoxw…直訳:自分たちのキッチン)という考え方があり、自然や動物、花、土地全てを含んだものを指す言葉である。今は何か土地を支配するという西洋的考えに陥りがちだが、私たちは神と一緒に住むという考え方があり、例えば動物を獲った時は必ずタバコを供える(隣に添える)、といったことをする。また、ウェットスェテンには時々木に(顔型の)印を施しているが、それは自分たちの土地という意味だけでなく、自分たちの責任の下にある、という意味でもある。」といった価値観に対する話があった。
「(生物多様性を保持しながら1000年以上その土地で暮らしてきた)ウェットスェテンの人々にとって、多くの大企業が私的な利益のために土地に侵入し、国家ですらその介入を促すというのは長年受け継がれてきた先住民の中での意思決定の仕方(下の者が意見を出して、首長と話し合って決定する)とは全く違ったものである。今はCGLパイプライン事業たった一つとの戦いだが、これまでもっと多くのパイプラインが建設されようとしてきた。しかし私たちはずっと抵抗してきている。土地にパイプラインを通すということは、実際生まれる利益よりも4倍のダメージが自然には起こる。」
また、彼のプレゼンテーションの中で特に印象的だったのは、繰り返し土地に侵入し先住民の人々を抑圧しようとするRCMP(カナダ国家警察)に対して、ジェシーさんらは時々RCMPの扮装をしてインターネットなどのインフラを使おうと試みていたこと、そして彼らと昼食を一緒に食べるかなどのコミュニケーションすら行っていたということだ。もし同じ服装をしているだけで彼らが友人として振る舞うことができるなら、先住民と彼らとの違いは一体何だろうか。もし彼らと先住民の人々に違いがないのだとしたら、彼らはなぜウェットスェテンの人々の土地を奪うなどということができるのだろうか?
実際、州政府と連邦政府にはウェットスェテンの土地に利権を持つ産業に作業の許可を与える権限はないとされている。ウェットスェテンに首長たちのその土地の全ての管轄権があり、彼らの土地に立ち入る際は、アヌク ニウィッ イテン(anuc niwh’it’en/ウェットスウェテンの法律)を確認しなければならない。3
ワークショップではその後映画『YINTAH』の20分間のショートバージョンが上映された。私はウェットスェテンの人々の広大な土地や、川や、活動家一人ひとりを初めて映像で目にしたため、今まで知っていた文字情報が映像として1年半越しに繋がりとても新鮮だった。そして気づいたのだが、彼らのほとんどは実名と顔を出して運動を続けていた。いや、もしかしたら実名や顔を出さなければ、こうした抵抗運動を広げることが難しいのかもしれない。名前や身体が晒される危険性を十分知っているのもまた活動家自身であるが、ドキュメンタリー映画でも自己発信のビデオの中でも、ほとんど彼らは名前とともに活動を今も続けているのだ。
日本との連帯
日本ではウェットスェテンをはじめとしたカナダの先住民の人々の存在の知名度は低く、また彼らの取り巻く複雑な状況をすぐに理解することは難しいのかもしれない。こうした土地をめぐる問題の背景には、資本主義の理論でいえば国家が土地の利用を決定し、大企業はそれを自由に買い取り開発できるという強い力関係が存在する。そして、その中で先住民たちはいかにして自分たちの居住権を忍耐強く、かつ長期的に訴えていくかという我慢比べのような、孤立した困難さを伴うことになる。そして、このパイプライン事業に関しては日本も全く無関係ではなく、三菱商事をはじめとした日本の大企業や大手銀行4が既に出資や融資を行っており、力関係の関係のさなかに、また私たちも存在しているのだ。
「先住民の権利と人権の継続的な闘い」であるとワークショップの事前テーマとして語った通り、少人数で武器も持たない人々に対してかかる抑圧と土地の奪取に疲れ果てている彼らのために私たちができることはなんだろうか。やはり、日本からのグローバルな連帯による外圧としての声ではないか。しかし、そもそもゆるやかに知名度を上げたり知ったりする機会も必要で、ジェシーさんの扮装の話の中で言っていた抵抗の中の「ユニークさ」もあったほうが…などと考えながら、プレゼンテーション、上映会、運動におけるより詳細な状況について話し合ったグループセッションと盛りだくさんのワークショップは土曜日の日暮れとともに閉幕した。
短くまとめてしまったが、ウェットスェテンの人々との10年以上にもわたる(長い)闘いがこのドキュメンタリー映画でまとめられている。日本語字幕版での上映も、もしかしたらこの小さなうねりの中で話が出ているかもしれない。
○ドキュメンタリー映画『YINTAH』は、現在NetflixとCBC Gem英語圏のみで配信中。
映画公式サイト→ https://www.yintahfilm.com/
○UnistotenCampのYouTubeチャンネル(日本語字幕も選択できます)→ https://www.youtube.com/@UnistotenCamp/videos
- CGLパイプライン(コースタル ガスリンク パイプライン)…カナダのブリティッシュコロンビア州を通る約670kmにわたる採掘したシェールガスを通すパイプライン ↩︎
- Internment of Japanese Canadiansで調べるとさらに詳しく知ることができます。 ↩︎
- YINTAH ”Our Impact — Gidimt’en Yintah Access” https://www.yintahaccess.com/historyandtimeline, (参照2025−3−7) ↩︎
- FoE Japan”LNGカナダプロジェクト” . 2022-12. https://foejapan.org/wpcms/wp-content/uploads/202212ver_LNG-Canada_factsheet.pdf
三菱商事”LNGカナダプロジェクトの最終投資決定について” . 2018-10-2. https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/news/release/2018/0000035813.html ↩︎