ウィリアム・E・コノリー『野心的ファシズム』読書会

 本検討会では、アメリカの政治理論家であるウィリアム・E・コノリーが2017年に出版した『野心的ファシズム Aspirational Fascism』について私(佐藤)が翻訳したものを全三回にわたって検討する。

 本書の主題は、トランプ政権の誕生とともにアメリカに台頭してきた極右運動を「野心的ファシズム」として捉え分析するとともに、多元主義や平等主義を対抗的な理念として提示することである。コノリーの政治思想の内実は極めて多岐に及ぶものの、そのひとつとしてファシズムの運動と気候変動との関連性を模索することが挙げられる。急激な気候変動の進展や人新世という言説の共有につれ、私たち人間社会はもはや自然とは無縁でいることはできず、むしろコントロールの効かない自然と付き合っていかなければならない状況に陥っていることが明らかになってきた。こうした気候変動や人新世は、従来前提とされてきた自然と隔絶されて存在する人間や社会のモデルの脆弱性を露わにしてきた一方で、両義的な状況をも引き起こしている。一方では、人間以外の存在や自然との関係に立脚した気候変動へと応答することのできる政治理論を構築する契機となっている。他方では、トランプに顕著なように、脆弱性は社会秩序の不安定さや人々に不安をもたらし、これらに対する反動として気候変動否認主義が台頭してきている。気候変動否認主義は多くの場合、確固たる人間像に拘泥することにより、環境危機への応答を一層遠ざけるのみならず、ファシズムというフィルターを通して現れることにより民主主義や多元主義を危機的な状況に追い込んでもいる。それゆえ、トランプを中心にして立ち現れた野心的ファシズムは、政治的運動それ自体としてその問題性を問われる必要があるのみならず、気候変動との関係においても考察される必要があるのである。

『野心的ファシズム』は、こうした気候変動否認主義やファシズムが指導者と支持者、特に白人労働者階級との関係においてどのように共有され、浸透していったかが分析の焦点となる。この際、コノリーの立論における特徴は指導者の提示するジェスチャーやレトリック、イデオロギーがメディアを介してひとびとの判断や情動、身体のあり方、これらの一連の回路を形成してきたのかを問う点にある。トランプはこの点において非常に際立った人物である。「フェイクニュース」と言いながら記者を強く指弾し、暗殺未遂の場では血を流しながらも星条旗を背後にして拳を逞しく振り上げ、こうした振舞いに関して枚挙に暇がないほどにトランプのジェスチャーは強い印象を残してきた。そこであるひとびとは強い指導者、そして「暴力」に屈せず強く立ち上がる指導者に胸を高鳴らせてきたのではないだろうか。他方ではトランプによるこれらの身振りに対して嫌悪感や怒り、虚脱感を感じるひとびとも存在してきた。本書は、政治のプロセスにおいて指導者のレトリックなどが気候変動否認主義やファシズムを押し上げるひとびとの情動や身体に働きかけ、組織してきたかを問うことになる。

 『野心的ファシズム』は特にトランプ政権第一期に分析の焦点が当てられているため、その議論の射程にはたしかに限定される部分があるかもしれない。また櫻井隆充が述べるようにコノリーが指示する野心的ファシズムとは実質的にはトランプ現象や類する極右的運動であって、コノリーの議論にはファシズムのさらなる理解にさらに繋がらない側面がある(Takamichi Sakurai (2021) “Aspirational Fascism versus postfascism,” History of European Ideas, 48(5), 650-660)。しかし本書で問われるレトリックと身体との関係、また対抗的に提起される多元主義や平等主義――この構想はマニフェストという性格からさらに議論がなされるべきかもしれないが――は、アメリカを超えて広く有効性を持っているように考えられる。日本における高市政権の誕生とその運営を見れば、SNSでの積極的な運動や感情を良くも悪くもはっきりと表出させた国会答弁や会見が散見される。あるひとびとは一方では「元気で率直さがあって好感をもてる」と感じるかもしれないが、他方では「わざとらしくて信頼のおけない」と感じるかもしれない。一見単純に思える感情の表出も人々の政治的判断へと差し込まれそれを形成することによって、社会の一翼を形成しているように思われる。本書の検討を通じて、日本においても今後生じ得る極右運動や気候変動否認主義を分析するための観点を提供するとともに、対抗的な政治的実践を考える契機となれば幸いである。

 読書会は、全三回を予定している。最初に訳者である私から議題とする各章の要約や議論の背景を提示したうえで、参加者の方からどのように本を読んだか、またそれと関係してどのように感じたり考えたりしたかを共有してもらうかたちで進めることを予定している。

 参加にあたって要件など特にありません。ただし未刊行の翻訳のため取り扱いに気を付けるなど研究倫理を遵守してください。

日時:2026年7月19日(日)19:00~21:00(予定)

場所:Zoomでのオンライン開催

参加を希望される方は下記フォームよりご登録下さい。

ご登録いただいた方にZoomリンクおよび資料をお送りいたします。

https://forms.gle/EZPq8DgNaL1YhXxg6

佐藤竜人


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