ジェノサイドへ延びるパイプライン:BP社のイスラエルへの石油ルート│パレスチナのためのエネルギー禁輸

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ジェノサイドへ延びるパイプライン:BP社からイスラエルへの石油ルート

〈パレスチナのためのエネルギー禁輸〉

トランスナショナル研究所、2024年9月9日

原文リンクhttps://www.tni.org/en/article/pipeline-to-genocide

過去10か月にわたって、私たちは歴史上もっとも同時中継的なジェノサイドを目撃しており、イスラエル軍は学校から病院まで、ガザのインフラを破壊しつくしている。しかし、こうした破壊の兵器は、何もないところから現れているわけではない。それらは地球規模のエネルギーのサプライチェーンから力を得ているのだ。これらの繋がりを理解することによって、エネルギー企業がいかに戦争機械に燃料を与え、帝国主義のアジェンダにとっての生命線として役立っているのかが明らかになる。

※この調査はshadoとEEFPとのあいだで実施され、ゲリラ・ファウンデーション(Guerrilla Foundation)の支援のおかげで可能になった。

はじめに

過去10か月にわたって、私たちは人類史上もっとも同時中継的で、もっとも証拠の多いジェノサイドを目撃しつづけてきた。イスラエルの軍事ジェット機や軍用車両がガザで人々の生を可能にしているあらゆるインフラ――学校から病院、さらには墓地の冒涜まで――を倒壊しつくす様子が生中継(ライブストリーム)されてきた。[1]

しかし、こうした破壊の力は、何もないところから出現するわけではない。その力は、世界中の軍需工場に由来する部品が取り付けられ、地球全体に散らばる貯留層からの石油によって燃料が与えられている。 

したがって、エネルギーのサプライチェーンをその始点(採掘)から終点(イスラエルの軍用車両による使用)まで辿ってみることは、きわめて重要なこととなる。もし私たちが「[武器製造企業]がアメリカ帝国主義の拳であり、同様にロジスティクス企業がその腱である」のだと理解するならば、 エネルギー企業こそ、この死の機械に酸素を提供しているものに他ならない。

BP社のガス・ライセンス

イスラエルはこの酸素を、多様な源泉から受け取っている。2023年11月、西側のいくつかのエネルギー企業――ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)社も含む――に対して、イスラエル・エネルギー省が占領下のパレスチナ海域におけるガス探査ライセンスを与えた、というニュースが暴露された。そうした探査区が信頼のおけるガス供給源に変えられるまでには何年もかかるだろうとはいえ、アメリカイギリスの活動家グループは、こうしたビジネス取引が進行中のジェノサイドの陰で交わされたことに対して抗議を行ってきた。

イスラエルが西側をバックにつけたガザへのジェノサイド攻撃を行う動機を、海洋ガス田の開発のみに還元することはできない。進行中のジェノサイドは、アメリカの帝国主義、および中東地域において同国の利害を代演する近接国家のロジックの一部として理解されなければならない――すなわちシオニズムによる入植型植民地プロジェクトは、歴史的パレスチナの全土で民族的な浄化を行い、天然資源をつかみ取り、その燃料供給を利用・輸出することで軍事的・経済的な力を強化することを目指しているのだ。

実際、BP社のガス・ライセンスに対する抗議活動を行ってきたのは、私たちだけではない。イスラエル企業と協定を結び、イスラエルに燃料を供給しているエネルギー企業に対してキャンペーンを行っているのは、トルココロンビアの他の活動家グループも同様だ。

こうした理由から、私たちはBP社に与えられたガス・ライセンスを、イスラエルに燃料を与えるというBP社のより大きな役割のなかで位置付ける。BP社は、バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)石油パイプラインの操業企業かつ最大の株主であり、同パイプラインはジェノサイドのあいだ、イスラエルの石油の28%を供給している。

本調査では、私たちはBP社の植民地主義の歴史、およびBTCパイプラインのサプライチェーンを探求する。私たちは同時に、BP社の国外での操業を円滑化している社会的ライセンスについても詳しく見ていく。社会的ライセンスとは、企業が利潤を目的とした自社の継続的な植民地ビジネスの実践に対して、公共的な賛同を得ることで正統性を上乗せするプロセスを示す、商業上の比喩的概念だ。

BTCパイプラインに着目することで、中東における継続的な石油採掘にとって、そしてグローバルノースに富が集中するグローバルな不均衡蓄積にとって、シオニズムの入植型植民地主義がいかに中心的なものであるのかが明らかになる。

パレスチナの解放と中東地域の反シオニズムの抵抗は、したがって、資本主義に対抗して、公正な移行のために行われるより大きな闘争の、中心に置かれなければならない。それゆえシオニズムによるパレスチナの占領に対抗して帝国の中核の内部から組織化を行うことは、ジェノサイドの実行者の責任を問う以上に、きわめて大きな意味を持つことになる。これは帝国主義――グローバルノースへと価値を持続的に流しつづけるために特定の人口や生態系を破壊すること――に対抗するより大きな戦いの一部なのだ。

エネルギーと帝国主義:BP社に関するイントロダクション

BP社の歴史と、同社による石油の植民地主義的採掘、労働の搾取、クーデター指揮は、エネルギーが帝国主義システムに果たす役割を理解するうえで、決定的に重要だ。

中東における石油産業は1901年に署名された採掘契約に始まるが、それはイギリスの資本家に対してイラン南西部のフーゼスターン州における排他的な石油探鉱権を与えるものだった。第一次世界大戦に至る期間、ヨーロッパ諸国は石炭から石油への移行を開始し、工業の発展やアフリカとアジアへの植民地拡大を加速させようとした。アングロ・ペルシアン石油会社(APOC)――現在はBP社として知られる――は、石油がフーゼスターン州で発見され採掘されはじめたのち、最終的に1909年に登記された。

1914年、チャーチルに急かされる形で、イギリス政府はBP社の株式の過半数を獲得した――この投資によってイギリス王立海軍は石炭から石油へのエネルギー移行を経験することが可能になった。

そもそもの始まりから、BP社の利害はイギリス国家の利害と結びついていた。石油ビジネスによる利益が増えれば増えるほど、イギリス国家は富裕になっていった。同時に、石油はイギリスの帝国主義的軍事化、および植民地投機に燃料を与えるために使用されはじめ、反対に、世界中の石油埋蔵を確保するために軍事的攻撃が利用された

BP社が操業を中東各地へ拡大するにつれて、イギリスによる搾取への反対も増大した。1953年、アメリカとイギリスはクーデターを指揮して民主的に選出されたイランの大統領モハンマド・モサッデグを取り除いたが、彼はAPOC社を国有化することを望んでいた。

1953年のクーデターとそれに続くモハンマド・レザー・パフラヴィーの権力の固定化の結果として、BP社は1979年の革命まで、イランの石油の40%を確保することになった。この期間のあいだ、シャー[パフラヴィー]は中東地域における英国の帝国的利害を代演し、アラブとイランにおける反帝国主義の解放闘争の基盤を掘り崩した。

イギリスの工業発展におけるBP社の切っても切り離せない役割は、イギリスの生活水準がフーゼスターンで採掘された「安いイラン石油」に基づいたものであったことを意味している。こうした石油はバスや自動車、工場の燃料として使われただけでなく、自国の植民地――南アフリカ、パレスチナ、アイルランド、ケニア、キプロスが含まれるが、それだけではない――でのイギリスの暴力的な帝国支配を維持するものでもあった。

20世紀の後半にはBP社はとうとう完全に私営化[民営化]された企業に変わったけれども、国家と企業のあいだの緊密な関係は依然として強力なものだった。BTCパイプラインのプロジェクトを軌道に乗せるうえでイギリス・アメリカ両国家が行った関与の重みは、途方もないものだった。1991年のソビエト連邦の崩壊ののち、この時のために行ってきた準備を利用するのに、BP社は一刻の時間も無駄にしなかった。同社はすぐさま行動を起こし、独立したばかりのアゼルバイジャン――移行期にある国家で、グローバルな資本主義市場へと向かいつつあった――への掌握を強めた。

1992年にマーガレット・サッチャーは、BP社の要請に応じ、新生国家とイギリスとの結びつきを確固たるものにするべく、アゼルバイジャンを訪問した。BP社の元CEOであるジョン・ブラウン(John Browne)が詳述するように、「ポスト・ソビエトの国々が政府間取引を理解し受け入れることにまだ抵抗を持っていなかったなかで、イギリス政府と緊密な調整関係にあることは、私たちにとって不可欠なことだった」。イギリス国家によるプロジェクトや潜在的な取引の是認は、BP社にとって最大限活用することのできるまた別の交渉戦術だった。

アメリカの存在感を中央アジア地域で感じさせるための攻撃的な押出しの結果、1998年のアメリカの「カスピ海エネルギーの調整グループ」が創出されたが、そこには政府の代表とCIAが含まれていた。このグループは三週間ごとに会合を行い、「石油会社とアゼルバイジャン・ジョージア・トルコ政府の双方に対して、アメリカが要求するパイプラインを建設するよう圧力を加える」ために必要な短期的な戦略的計画の肉付けを行った。

パイプライン・プロジェクトの戦略的方向づけに自国に有利な影響を与え、同時にアゼルバイジャンをロシア・イランを監視する従属国家として仕立てようとする英米の関与は、私企業がアメリカとイギリスの帝国的利害に寄り添う(そしてそれを産出する)という長期にわたる伝統のなかに位置している。こうした地政的リアリティは、私たちが現在目にしている文脈の背景を形作っている。西側の利害にぴったりと寄り添ったアゼルバイジャンは、地域のまた別の帝国の出先機関(アウトポスト)であるイスラエルが実行するジェノサイドに、燃料を与えているのだ。

「世紀の契約」:ある国境横断パイプラインの基礎

BTCパイプラインを通じたイスラエルへの原油供給において働いている利害関係を理解するためには、アゼルバイジャンとBP社のあいだで1990年代に交わされた協定を理解することが重要だ。その記録は、グローバルサウスの「主権」国家に対するBP社の継続的な優越性を動かしがたく立証している。

BTCパイプラインのための基礎協定は、1994年にアゼルバイジャン政府と西側のエネルギー企業とのあいだで交わされた74億ドルの「世紀の契約」だった。この取引の自慢気な称号は、それが解き放つことになる開発の価値と規模を反映させるために[契約の]当事者が意図的に採用したものだ。

この契約は、カスピ海に位置するアゼルバイジャンの三つの主要な油田――まとめてACG油田として知られている――を、国際エネルギー企業の大きな補助を受ける形でSOCAR(アゼルバイジャン共和国・国営石油会社)がどのように開発することになるかを詳述するものだった。油田で生産された炭化水素は、その後に利潤のために売却されることになった。はじめのうち、利益の大半は国際エネルギー企業に向かうことになっていたが、[実は]そうした企業自身こそが、開発コストを回収しみずからの利ざや(マージン)を最大化することができるよう、こうしたシステムを構築したのだ。

この契約は、6つの国家――アメリカ、イギリス、ロシア、ノルウェイ、トルコ、そしてサウジアラビア――を代表する11の外国エネルギー企業[訳注:AIOCには日本の伊藤忠商事が参加しているため、実際には7カ国11企業である]からなる合弁企業(コンソーシアム)へとアゼルバイジャンを縛り付けることになった。SOCAR社の外国エネルギー企業との結婚は、AIOC(アゼルバイジャン国際運用会社)の創出によって具体的な姿を与えられることになり、AIOCが石油プロジェクトの実行を統括する責任を負うことになった。

1998年には、BP社はAIOCの30.37%の出資比率を有しており、ACGプラットフォームの操業企業だった。今日でも、BP社のアゼルバイジャン、トルコ、ジョージアにおける操業の取締役が、AIOCの取締役を兼ねている。

BTCパイプラインは、現在三つの国家のうえを通っている――アゼルバイジャン、ジョージア、トルコである。これはBP社が主導するエネルギー合弁企業が個々の国家とのあいだに私的な法定契約を確立して初めて可能になった。

それぞれの契約は、BP社と契約を結んだアメリカの法律企業であるベイカー・ボッツ社(Baker Botts)が立案したものだ。ベイカー・ボッツ社は石油の自由な運動をなによりも優先させ、「安定化条項」を通じて、将来的なカスピ海の石油開発を四十年にわたる不動かつ法的な事実として固定化した。こうした条項はとりわけ、国内の政治的変動やその他の潜在的に不利益を及ぼす出来事から株主たちを守るために考案された。BP社やそこから利潤を得ている者たちがかくも重度に依存しているこの三カ国においてきわめて必要とされている安定性が、変化をこうむることのないように。

これらの協定の重要性は、いくら強調してもしすぎることはない。BP社側の条件は、公的医療、土地収用、徴税、環境規制、そしてパイプラインの安全性といった事柄についての現地の法律さえも無視したものだ。それぞれの国の政治的主権の浸食は、石油産業に従事している人々が「アゼルバイジャンのBP国家」と呼んでいるように、同社の植民地主義の歴史に兆候的に表れているものだ。こうした呼び名は、私企業と国家という両アクターの相互作用を暴き出している。 

地球全体へと拡大している石油貿易とエネルギーのサプライチェーンは、しばしば故意に断片化され、見えにくくされている。BP社主導のエネルギー合弁企業によって保障されている協定を分析の基礎とすることによって私たちは、イスラエルがパレスチナの人々に対する進行中のジェノサイドを持続させるうえで、誰が鍵となるインフラの背後にいるのかを明らかにすることができる。

BTCパイプラインを追跡する

シオニストによるジェノサイドへと至る原油のサプライチェーンはロンドンの本社から3000マイル離れた場所で操業されているにも関わらず、BP社はそのあらゆる段階に埋め込まれている。すなわち、カスピ海における採掘から国境横断的な領域にまたがる輸送まで。

  1. サプライチェーンは、アゼルバイジャンの首都バクー沿岸、カスピ海のACG油田から始まる。これらの油田はアゼルバイジャン最大の石油埋蔵であり、BTCパイプラインへの供給原料の主要な源泉である。アゼルバイジャンの領海に位置しているにも関わらず、イギリスに拠点を置くBP社の子会社が油田の操業を行っている。
  2. ACG油田の原油はその後、海底パイプラインを通ってバクー近郊のサンガチャール・ターミナル(Sangachal terminal)へと流れる。ここで石油は受け取られ、蓄積される。ここがBTCパイプラインの第一の停留所であり、アゼルバイジャンの石油(商業的には、アゼリー・ライトもしくはアゼリー原油と呼ばれる)を世界市場と結びつけている。サンガチャール・ターミナルもまた、BP社が株式の過半数を所有し運営している。
  3. 1099マイルにわたって、BTCパイプラインはアゼルバイジャン、ジョージア、トルコの三か国間をまたがる国境を横断している。パイプラインは現地の村々を荒廃させ、クルド人の土地を切断しており、その沿線pathは高度に軍事化されている。その輸送容量は、カスピ海から地中海まで、一日あたり原油120万バレルである。
  4. パイプラインの終点はトルコの港ジェイハンである。BTCパイプラインのトルコ領内のセクションは、トルコの国営石油企業であるBOTAS社によって操業されている。ここで、サプライチェーンは陸から海へと移動する。 
  5. 石油は石油タンカーによって海運ルート沿いに輸送される。石油の海外輸送には、さまざまな石油企業・海運企業が契約を結んでいる。2023年10月以来、ジェイハンからイスラエルへと石油を輸送する船舶をチャーターしてきた企業にはスイス企業が多いが、その内訳は、オイルマール(Oilmar)社(アラブ首長国連邦)、ペトラコ(Petraco)社(スイス)、SOCAR社(アゼルバイジャン)、ヴィトル(Vitol)社(スイス)、そしてグレンコア(Glencore)社(スイス)である。
  6. 石油タンカーは、最終目的地として占領下のパレスチナの土地に到着し、アシュケロン、アシュドード、ハイファという「イスラエルの」港湾に着船する。ガザ北部から約12マイルしか離れていないアシュケロンは、アゼリーBTC原油の主要な目的地だが、2023年10月以来の数か月、パレスチナの抵抗運動による頻繁なロケット攻撃のために操業停止に陥っていた。

トルコからの海上貿易ルートはイスラエルの石油供給にとって決定的に重要であり、その遮断は、シオニズムのプロジェクトにとって生存をめぐる脅威を意味する。イスラエルは陸地において地政的に孤立しており、海上からの輸入に完全に依存しているからだ。シオニズムの領土拡張プロジェクトが近隣諸国に主権にもたらす脅威を考えれば、燃料供給を直接的に届けるパイプラインは地上には存在しない。このことは深刻な地政的な脆弱性を意味しており、こうした弱点をイエメンのような国々は戦略的に利用してきた

紅海の海上国境内の海軍による統制を実行することで、イエメンはイスラエルのエイラト港(Eilat)を終着点とした石油船舶を妨害したが、エイラト港はイエメンのアンサールッラー[フーシ派]による封鎖以来、いまや「破産状態にある」。

帝国の出先機関として、イスラエルは西側の帝国主義と同盟を結ぶほかの諸政権との関係に依存している。1961年、イスラエルはアラブ世界を包囲する試みとして、イラン、エチオピア、トルコといった非アラブ諸国とのあいだに強力な同盟関係を培った。アゼルバイジャンとイスラエルとの強力な関係は、こうした伝統のなかで捉えることができる。利益は双方向的なものだ。アゼルバイジャンが石油を提供する一方で、イスラエルはアゼルバイジャンがアルメニアを侵攻するうえで70%近くの軍備を供給してきた。帝国主義に連盟する国々が土地の略奪と民族浄化を行うなかで、石油と軍事主義が手に手を取り合ってそれを助長している。

植民地主義ジェノサイドへと延びるパイプライン

アゼルバイジャンの原油がアシュケロンに到達すると、それはアシュケロン・ハイファ間パイプラインを通ってアシュドード精製所へと移送される。精製所はパズ・オイル社(Paz Oil)によって所有されているが、2023年の第3四半期レポートの言明によれば、「戦争が始まった直後から、同社はIDFおよび前線に位置する家屋から非難した人々が必要とする食料、燃料、その他の製品の無償提供を開始した」。この精製所はイスラエル軍のためのジェット燃料の生産場所であるだけではなく、ジェノサイドの目論見に対しても燃料を「無償提供」してきた。精製所による報告書はまた、そのアウトプットの50%以上がディーゼルおよびナフサであると記述しており、それらは軍用に広く用いられている。精製所がすでにIDFとのあいだにジェット燃料の契約を結んでいる以上、他の燃料について未公開契約を保持していたとしても不思議ではない。

証拠は、有罪を指し示している――BP社によって採掘されBTCパイプラインを経由して輸送されるアゼルバイジャンの石油は、イスラエル国内でジェット燃料へと精製され、ガザでジェノサイドを実行している軍隊に提供されている。

このことは、BP社やSOCAR社からトルコ当局まで、関与しているすべてのアクターに対して深刻な帰結をもたらす。とりわけ、ガザでのイスラエルによるジェノサイドの確からしさを宣言した、国際司法裁判所(ICJ)での南アフリカによる訴訟という点から見たときに。

アゼリー原油は[ただでさえ]イスラエル軍によって使用されているが、[さらに言えば]入植型植民地である軍事国家において、民用のインフラと軍用のインフラのあいだに明確な線を引くことはできない。イスラエルは小さな国でありながら、過剰に大きな軍隊を有しているため、民用と軍用の燃料サプライチェーンが著しく重複し、両者の輪郭はぼやけている。私たち自身によるパズ・オイル社の2024年の第1四半期報告書の検討によって、同社の〈航空サービス〉の子会社――イスラエル空軍のジェット機の燃料補給のための契約を結んでいる――が、民用の燃料需要とならんで、[軍事上の]「輸送のためのエネルギー」という見出しにも載っていることが判明した。

入植型植民地(セトラー・コロニアル)プロジェクトは、その定義と機能からして、暴力的な軍事プロジェクトである。なぜなら、その確立と維持の両方が、その土地に生まれた人々を武力と強制によって追放し、従属させることに依存しているからだ。入植者の社会は軍事的かつ軍事化された社会であり、それをもっとも良く例証しているのは、イスラエルの入植人口を占領軍へと作りかえる義務的徴兵制であり、ジェノサイドの最中に「民間の」ガソリン・ステーションで給油を行う軍用戦車の出回った写真だ。 

こうした理由から、区別というものはなくなってしまう――イスラエルの土を踏んだ原油の最後の一滴まで、ガザでのジェノサイドのための燃料であると見做すことができる。ジェノサイドはシオニズムの副作用でもなければイスラエル国内の極右の政治潮流の結果でもなく、この手の入植型植民地主義の核心をなす機能なのであり、その前提とは、1948年以降継続しているナクバにおいて明白に証立てられているように、その土地に生まれついた人々の根絶にほかならない。

グローバルな気候運動の内部で、私たちは燃料の源泉や採掘地点だけではなく、その具体的な使用に焦点をシフトしなければならない。だが、イスラエルにおけるエネルギー使用の検証は、ガザにおけるジェノサイドおよびエコサイドに限定されてはならない。イスラエルに燃料を与えている私企業アクターはまた、同国の領土拡張プロジェクト、およびレバノンシリア(イスラエルによる爆撃および軍事占領に晒されてきた)といった近隣諸国の主権領土の侵犯にも、燃料を与えている。

したがって、それらがジェノサイドに寄与している以上、私たちはBP社の石油パイプライン――イギリスの土のうえで操作され、運用可能なものになっている――を無視するわけにはいかない。

BP社には責任がある。BP社は有罪なのだ。BP社は、ジェノサイドを行うシオニズム国家へ燃料を供給することを停止するよう、強制されなければならない。そして、BTCパイプラインのサプライチェーンがアゼルバイジャンに始まっているとはいえ、BP社のあらゆるビジネスは、想定上、イギリスの公衆の合意と支持のもとに実行されている。

正統性を捏造する:BP社の政治的ロビー活動と操業の社会的ライセンス

BTCパイプラインを通じてアゼルバイジャンからイスラエルに至るサプライチェーンとBP社の石油のイスラエルへの海上輸送を追跡するなかで、私たちは政治的なロビー活動やBP社の社会的ライセンスもまた、いかにこのサプライチェーンの不可欠な一部であるのかということを認識するようになった。

デクラシファイド』の調査によれば、BP社の最大の探査ライセンス――採掘地にはイラク、ナイジェリア、ベネズエラ、そしてリビアが含まれる――は、こうした国々での新植民地戦争へのイギリスの支援の推進を通して、そしてM16[秘密情報部(イギリスの諜報機関)]との共謀を通して取得されてきた。

本稿に関連する例でいえば、M16はアゼルバイジャンにおける1992年と1993年の二つのクーデターに関与したと報道されており、その結果のし上がったヘイダル・アリエフ(Heydar Aliyev)が、アゼルバイジャン大統領としてBTCパイプラインにつながる「世紀の契約」を監督した。そればかりか、2015年から2022年にかけて、M16の元長官であるジョン・サワーズ(John Sawers)がBP社の役員に就任した。

サワーズの任命が公表されたときに、BP社がイラクにおける元イギリス特使の情報と外交経験を頼みにしており、それによってBP社が英国のエスタブリッシュメントとの交わりを広範に深めていることが明白になった。

より最近の例では、BP社は利潤の大きい数百万ドル規模の取引をほとんど精査もされないまま隠蔽してきたが、それは英国の元/現役国会議員(MPs)に対してロビー活動を行うことによってだった。最も目を引くのは、元国会議員で保守党・イスラエル友の会の議長であったスティーブン・クラブ(Stephen Crabb)が2022年7月にBP社からウィンブルドンのチケットを受け取ったケースであり、それはイスラエルが2022年12月にガザにおけるガス探査のライセンス入札を組織するたった五か月前のことだった。クラブによるBP社のゲスト出席の目的に関しては想像することしかできないけれども、BP社とイギリス国家のアクターとのあいだに内密かつ親密な取引があったことは、ここからも明らかである。

政府関係者が石油企業によって接待を受ける事態が常態化していることは、イギリスの政治的エスタブリッシュメントが、保守党であれ労働党であれ、同じように誘惑や腐敗、大企業による内密のロビー活動による申し出に対して、いかに開けっぴろげであるかということを示している。

ウェストミンスター[英国議会]の通路以外にも、BP社は操業の社会的ライセンスを通じて私たちの日常生活のなかに自らを定着させており、社会における影響力そのものを強化している。

BP社自身の言葉によれば、こうした社会的ライセンスが重要なのは、それが「人々に我々の製品を購入させ、求人に応募させ、我々の株に投資させ、そのコミュニティのなかでの我々の存在を受け入れさせる」からだ。この企業が善をもたらす力なのだというイメージを広く受容させることは、BP社を正当な事業体として定式化するうえで必要不可欠なものだ。

サプライチェーン内のリスク管理における社会的ライセンスの役割を説明する重要な出来事は、BP社が2010年にメキシコ湾で起こした〈ディープウォーター・ホライズン〉石油流出事故だ。この爆発の結果として、住民に対する大規模な化学物質汚染、11人の労働者の死亡、そして何年にも及ぶ海洋生命へのダメージが引き起こされた。当初の失費はあったとはいえ、BP社の長期的な株式市場のパフォーマンスには何の影響もなかった

石油流出事故のあとでBP社は「メキシコ湾調査イニシアティブ」と題された10年がかりの調査・住民参加プロジェクトのスポンサーとなり、自身の正当性を再構築し社会的・政治的なライセンスを取り戻そうと試みた。

イニシアティブを通じて、BP社が手ずから選んだ科学者たちは、石油採掘を社会が機能するために必要なものとして枠づけ、住民へのアウトリーチに際して用いられた総合報告書の論述のなかで、一度たりとも「気候変動」に言及することがなかった。このことが実証しているように、公共的なナラティブを形作り、BP社製の大災害を不可避の事故として売り込むうえで、BP社は大学や科学者を頼みにしている。

企業はしばしばグローバルな拡張において主導権を握る目的で自社の社会的ライセンスを用いており、たんに国家の汚れ仕事を請け負うだけでなく、帝国のキープレイヤーとして振舞っている。私たちの運動もまた、このように帝国の心臓部に企業を位置づけている戦略へと、矛先を向け始めなければならない。

主流な学術的・戦術的言説において、燃料のサプライチェーンはその物理的な形態(すなわち、採掘から燃料ジェットの経路、そして着船場所まで)において眺められている。このこと自体は正当であり、ジェット燃料がどこに上陸するのであれ、その場所に圧力を加えるうえで重要な側面ではあるが、そこでは社会的ライセンスの役割が見過ごされている。

社会的ライセンスを通じて作り上げられた合意は、サプライチェーンのあらゆる部分に存在している。大学の奨学金や就活フェアはBP社に若い学部生を供給し、かれらは採掘地点で働く石油技師やパイプライン技師になっているし、芸術・美術館・スポーツのスポンサーシップは、BP社が外国政府から掘削許可を取り付けるための社交場となっている。[2] 帝国の中核(そこでこそジェノサイドに燃料が与えられている)において社会的ライセンスを標的にすることで、サプライチェーンのあらゆる支点から、私たちの[想定上の]合意を取り消すことができるようになる。

下からの公正な移行

2024年11月、世界各地からの指導者たちがアゼルバイジャンの首都であるバクーに集結することになる。29回目の年次気候サミットであるCOP29に参加するためだ。この気候会談の仮装劇は、西側メディアの見出しを席巻することが予想され、すでに「富裕なグローバルノースと貧しいグローバルサウスの架け橋」として枠づけられつつある。しかし私たちは、このイベントには数十年にわたる前史が存在することを知っている。

「世紀の契約」なしに、BP社の深い関与なしに、あるいはBTCパイプラインを通じて具現化される利益のためのアメリカによる攻撃的な押出しなしに、COP29はありえなかっただろう。

それに相応しく、COP29の監督役となるアゼルバイジャンのエネルギー大臣は、政治家としてよりも、SOCAR社の社員としてより多くの経験を有している。それに加えて、戦争犯罪人で元イギリス首相であるトニー・ブレア――彼のイラクでの汚職によって、BP社は「ブレア・ペトロリアム」とあだ名されることになった――が、気候サミットに助力することを望んでいるのも、驚くことではない。

アゼルバイジャンの石油・ガス産業がさらなる拡大に踏み出そうとしているタイミングで、バクーでCOP29が開催されることもまた、偶然ではない。アラブ首長国連邦がCOP28を用いてそうしたように、開催国は、重要な新化石燃料取引の関係を強化する好機として、この失敗した制度を利用することだろう。アゼルバイジャンとBP社によるエネルギー採掘の計画は、まったく衰えるそぶりを見せない。

それどころか、かれらの石油採掘取引は、2017年に2049年まで終了が延長された。数十億ドル相当の投資が、すでに莫大なものであるエネルギー・プロジェクトに流し込まれつづけている。そしてこの継続的な協働関係はイスラエルを含むものにまで拡大されており、こうした文脈のなかでしか、BP社とSOCAR社が2023年11月にイスラエル沖合でのガス探査ライセンスを共同で受け取ることになった理由を完全に理解することはできない。

進歩の偉業として歓迎される一方で、BTCパイプラインはその建設当初から、クルド人グループとパレスチナ連帯の活動家たちによる抵抗にさらされてきた。トルコでは、フィリスティン・イチン・ビン・ゲンチ(パレスチナに連帯する千人の若者たち)が、SOCAR社の前でキャンペーンを行い、何度も何度も操業を妨害してきた。イギリスでは、私たちは商業的パートナーシップによって作り出されるBP社の社会的ライセンスを標的にして大規模な動員を組織し、学生、労働者、気候運動と協働しながら下からのエネルギー禁輸に向けて圧力をかけてきた。

私たちがこのパイプラインとパレスチナのあいだに見出している繋がりは、サプライチェーンの力学の結果にとどまらない。中東カスピ海沿岸地域は、世界の石油生産のおよそ40%に責任がある。イスラエルはこの地域における西側の帝国主義的利害にとっての要石であり、歴史的に、化石燃料の流れを保障し資本蓄積を防衛するという反革命の役割を演じてきた。

したがってシオニズムの解体は、際限ない資本蓄積のための化石燃料採掘に立脚したシステムを解体するための、前提条件なのだ。 

化石燃料以外にも、私たちはまた、イスラエルがグリーン移行の政治に関与することによって、占領下のパレスチナ各地で再生可能エネルギーの統制管理を拡張しようとしているのを目にしている。パレスチナの自由は、解放をめざす私たちの気候政治の中核に位置しなければならない。なぜなら公正な移行とは、入植型植民地主義(セトラー・コロニアリズム)と資本主義型帝国主義のロジックへの反対命題(アンチテーゼ)に他ならないからだ。

サプライチェーンを探求することで、私たちは遮断のための複数の支点を特定してきた。それは、BP社およびSOCAR社の社会的ライセンス、港湾とターミナル、迫りくるアゼルバイジャンでのCOP、そしてBTCパイプラインそれ自体だ。シオニズムによるジェノサイドがまもなく一年を迎えようとしているなか、戦略的に協働し、BP社のサプライチェーンをあらゆる段階で遮断することができる組織化された運動を緊急に構築する必要性は、かつてなく明瞭なものになっている。■

〈パレスチナのためのエネルギー禁輸〉Energy Embargo for Palestine は、イギリスを拠点とした反帝国主義を掲げる気候グループであり、シオニズムによるジェノサイドに燃料を与えているBP社とイギリス国家の役割を破壊している。

この調査は、shadoとEEFPのあいだで四か月間にわたって行われ、ゲリラ・ファウンデーション(Guerrilla Foundation)の支援のおかげで可能になった。


[1] 私たちがこのレポートのなかで「イスラエル」という呼称を用いるとき、私たちが意味しているのは歴史的パレスチナを占領している不法なシオニズム国家Zionist entityだ。したがって「占領パレスチナOccupied Palestine」は、民族浄化プロセスのなかで1948年に強奪されたヨルダン川から地中海までのすべての土地のことであり、1967年戦争以降に軍事占領されてきた西岸とガザのみを指すのではない。

[2] [訳注]〈パレスチナのためのエネルギー禁輸〉は今年(2024年)2月、BP社とスポンサー契約を結ぶロンドンの〈ブリティッシュ・ミュージアム〉において抗議活動を行った。https://jacobin.com/2024/02/british-museum-israel-bp-gaza

さらなる参考資料と読み物案内

Energy Embargo for Palestine’s Instagram and X pages

The Palestinian Youth Movement’s Mask off Maersk campaign

パレスチナ

気候政治と公正な移行

翻訳:中村峻太郎

©Transnational Institute, reprinted under a Creative Commons License

使用画像:Ashkelon and Zikim as seen from Beer Sheva beach in Ashdod, April 2024 via Wikimedia Commons


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