アゼルバイジャンはCOP29を用いて自国のイメージを「ピースウォッシュ」している

ブライアン・ブリヴァティ

『Conversation』2024年9月30日

原文リンクhttps://theconversation.com/azerbaijan-is-using-cop29-to-peacewash-its-global-image-239960

アゼルバイジャンは、11月に行われる次回の国連気候サミットCOP29の開催国になっている。そこで提案されている議題には、化石燃料の段階的廃止についての議論が含まれておらず、市民社会の参加も排除されている。これは驚くことではない。アゼルバイジャンは近年石油とガスの生産を増加させており、採掘を拡大することでその経済を多様化しようと試みているからだ。

同国はその代わり、気候会議にあわせてグローバルな休戦を呼びかけてきた。9月21日付の公開書簡のなかで、COP29の議長であるムフタル・ババエフ(Mukhtar Babayev)はこう書いている。「[COP29]は、分断に橋を架け、持続的な和平への道を見つけるためのまたとない好機だ。[…]紛争によって引き起こされる生態系の荒廃と汚染は気候変動を悪化させ、地球という惑星を防衛しようという私たちの努力の土台を掘り崩してしまう」。

アゼルバイジャンは、自らが平和の作り手(ピースメーカー)であるかのように振舞っている。しかしそのことは、同国の軍事攻撃・人権蹂躙・国際法侵犯の記録と著しい対照をなしている。アゼルバイジャンはその結果、ジェノサイドの申し立てにまで直面しているのだ。アゼルバイジャンは、自らのグローバルイメージを「グリーンウォッシュ」すると同時に「ピースウォッシュ」するためにCOP29を利用しており、しかし実際には、その領土拡張主義的な野望を持ち続けている。

2020年9月、アゼルバイジャンは、アルメニアと自国の双方が[領有を]主張する国境地帯であるナゴルノ・カラバフ[アルツァフ]で、六週間戦争を開始した。その戦争は結果として7000人の犠牲者を生み、アゼルバイジャンはかつての紛争で失った領土の大半を取り戻した。停戦はロシアによって仲介されたが、緊張はその後も継続した。

2023年、アゼルバイジャンは再び軍事作戦を開始し、すぐさま残りの地域の統制を再獲得した。攻撃によって10万人以上の民族的アルメニア人が逃亡を余儀なくされ、アゼルバイジャンからの独立を1991年に宣言したナゴルノ・カラバフは2024年1月に公式に解体された新たな調査によれば、その地域の多くの家屋がそれ以来略奪にあっている。

二人の国際法学者、フアン・エルネスト・メンデス(Juan Ernesto Mendez)とルイス・モレノ・オカンポ(Luis Moreno Ocampo)は、アゼルバイジャンによるナゴルノ・カラバフでの2020年と2023年の軍事作戦がジェノサイドの要件を構成すると結論付けた。

メンデスが強調したのは、アゼルバイジャンの戦略がアルメニア人に対して「深刻な身体的・精神的な害」を課すものだったことだ。そしてオカンポは、飢餓の利用、医療支援の拒絶、そして移住の強制を強調した。かれはアゼルバイジャンの戦術を、第一次世界大戦中のアルメニア人ジェノサイド、さらにはホロコーストとも比較した。

報道によれば、アゼルバイジャン軍はナゴルノ・カラバフ紛争のあいだアルメニア人に対して体系的に性的暴力を行使し、アルメニア人女性のレイプと殺人を推奨するメッセージを流通させた。また、数々の人権団体が、今日まで拘留されている数百人のアルメニア人の人質が経験してきた身体的・精神的な虐待について痛ましい説明の数々を提供している

紛争の多くの要素は依然として未解決のままだ。しかし軍事的な弱さという立場から、アルメニア首相のニコル・パシニャン(Nikol Pashinyan) は2024年5月に和平協定を提案した。そのなかには、ナゴルノ・カラバフがアゼルバイジャンの一部として認識されるべきだという主張を含む、アゼルバイジャン側の核心的な要求への譲歩が含まれていた。

そうした譲歩にも関わらず、アゼルバイジャンは和平協議への参加を拒絶してきた。それどころか同国は、アルメニアの憲法の変更も含む新たな一連の要求を行ってきた。

アゼルバイジャンは、別の場所の紛争でも役割を果たしている。2022年にロシアが完全規模のウクライナ侵攻を始める二日前、モスクワとバクー[アゼルバイジャンの首都]はある協定に署名をし、アゼルバイジャン大統領イルハム・アリエフ(Ilham Aliyev)はその協定によって「我々のあいだの関係が同盟のレベルにまで高められる」ことを宣言した。ロシア・アゼルバイジャンの同盟によって、アゼルバイジャンはロシアが西側の制裁を突破するうえで不可欠の通路となってきた。

侵攻後、ロシアのアゼルバイジャンへの石油輸出は四倍になり、アゼルバイジャンは国内のエネルギー需要を満たし、残りを輸出することができるようになった。実際のところ、アゼルバイジャンのロシアとの一般貿易は2023年に17.5%増加し、43億USドル(32億ポンド)にまで達した。

ピースウォッシュの試み以外にも、アゼルバイジャンがCOP29の開催国となることは、グリーンウォッシュの明白な事例だ。アゼルバイジャンは化石燃料の生産に依存しており、これまでのところ石油・ガスの段階的廃止には関与していない。

アゼルバイジャン自身としては、経済を多様化させる手段として再生可能エネルギーへの外国投資を呼び込もうと試みている。BP社は、2021年にアゼルバイジャンとのあいだで、ナゴルノ・カラバフ近郊のジャブライル(Jabrayil)で太陽光発電施設を建設する契約を結んだ。アラブ首長国連邦の企業も含むその他の国際的投資家たちもまた、バクー地域での太陽光プロジェクトに参画している。

しかし、経済の多様化の真の源泉は、鉱物の採掘だ――そしてその産業は、アリエフの一家によってその大半が所有されている。ナゴルノ・カラバフには、金・銀・銅を含む膨大な量の鉱物資源があり、アゼルバイジャンが2020年に同地域の統制を再獲得して以来、それらは搾取されつづけてきた。

異端派を弾圧する

アゼルバイジャン政府は、差別的な独裁政権だ。南コーカサスにおける危険にさらされた文化遺産をモニターする調査プログラムである〈コーカサス遺産ウォッチ〉は、アゼルバイジャン全体で何千ものキリスト教の遺産が破壊されてきたことを記録している。そして、LGBTQ+のコミュニティに対しては、体系的な差別が続いてきた。

COP29に先立って、国内の異端派への弾圧も起こっており、多くの活動家や政治的敵対者が逮捕や嫌がらせに直面している。国の西部での採掘を可能にするためのダム建設に反対する2023年のデモなど、環境をめぐる抗議活動は、暴力的に抑圧されてきた。

傑出した反政治腐敗のアクティヴィストでロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの上級客員研究であるグバド・イバドグル博士のような著名な人物も逮捕されてきた[日本語の記事はこちら]。少なくとも25人のジャーナリストやアクティヴィストが、政治的に動機づけられた罪科によって拘留されている。

〈Abzas Media〉や〈Toplum TV〉や〈Kanal 13〉のような体制に批判的な報道機関もまた、苛烈な圧力をこうむったり閉鎖されたりしてきた。そして独立ジャーナリストや市民社会のアクティヴィストたちは、COP29から排除されている。

こうしたこと全てが初耳なのだとしたら、それはアゼルバイジャンのいわゆる「キャビア外交」が原因だ。この戦略のなかで行われるのは西側のジャーナリストや政府職員への求愛であり、かれらの暗黙の助力があってこそ、アゼルバイジャンは詳しい調査の大部分からみずからの身を守り、ヨーロッパによるインフラへの投資を引き付けることに成功してきたのだ。

アリエフは、自らの言辞のなかで一貫してアルメニアの首都であるエレバン(Yerevan)を「アゼルバイジャンの都市」と呼んできた。これは歴史修正主義とジェノサイドの否認というより広範な戦略を反映するものであり、その目的は、ソビエト以前の国境に基づいて領土を取り戻すことだ。

こうした領土的な野望は、COP29の開催中は延期される。しかし、この気候会談は、南コーカサスにおける戦争の再開の前奏曲となる可能性もある。■

翻訳:中村峻太郎

©The Conversation, reprinted under a Creative Commons License.

写真:Baku Olympic Stadium in 2024.jpg via Wikimedia Commons


PAGE TOP