武力紛争と軍事産業はいかにして気候変動に影響を及ぼしているのか
ジュルジュ・クルズム
『環境と開発の地平線』2025年11月1日
原文リンク:https://www.maan-ctr.org/magazine/article/4755/
訳者前書き
本記事は、パレスチナ・ラマッラーを拠点とし、経済社会開発・農業に関する活動を行う団体「マアン開発センター」が発行するウェブ雑誌『環境と開発の地平線』に掲載されたKurzum, George. “Kayfa Tuʾaththiru al-Ṣirāʿāt al-ʿAskarīya wa-Ṣināʿā al-ʾAsliḥa ʿalā Taghayyur al-Munākh? Wa-ʾayna Mawqiʿ Isrāʾīl wa Amrīkā fī al-Muʿādala? (Dirāsa)”. Āfāq al-Bīʾa wa-al-Tanmiya. (November 1, 2025). 「武力紛争と軍事産業はいかにして気候変動に影響を及ぼしているのか。この関係のなかで、イスラエルとアメリカはどのような位置にあるのか」の日本語訳である。
著者のジュルジュ・クルズム氏は、1956年ハイファ生まれの環境学者・ジャーナリスト・活動家。エルサレム・ヘブライ大学で化学を学んだのち、ハイファのアラブ系私立学校で教鞭を執った。現在は、マアン開発センターの環境研究ユニット所長、および『環境と開発の地平線』の編集長を務めながら、イスラエル・パレスチナの環境、経済、開発、移民など幅広い分野について論考や著書を発表している。
本記事では、ベトナム戦争からイラク、アフガニスタン、ウクライナ、ガザなど歴史的な紛争事例を振り返りながら、現代の戦争や軍事産業が地球環境・気候変動にもたらす影響を論じるものである。本論考のポイントは大きく二つに整理できる。第一に、現代の戦争が膨大な炭素排出と環境破壊を伴う点である。軍用機などの燃料消費から、軍事戦略上の破壊・焼却行為、さらに戦後の復興に至るまで、戦争は地球上に甚大な「カーボンフットプリント」を残す。その規模は数十もの国家の合計排出量、あるいは先進国一国の年間排出量に匹敵するほどである。しかも、その排出の被害は局所的ではなく、地域横断的かつ長期的に及ぶことがこれまでの紛争から明らかになっている。第二に、こうした軍事排出量が、国際的な制度設計の場において軽視または黙認されてきた点である。クルズム氏は、各国が再生エネルギーの導入や産業の「グリーン化」政策を推進する一方で、軍事部門による石油の使用・燃焼し、CO2の無制限な排出を認める二重基準を露呈させている。
今日のイスラエルによるガザ地区の人々に対する侵攻は、大規模なジェノサイドや飢餓を引き起こした。それだけでなく、ガザ地区の空爆と地上攻撃、都市や環境の破壊とその復興はCO2排出による地球全体のリスクを生み出すことが推定されている。本稿が示すように、これは例外的事象ではなく、歴史的に戦争において繰り返しみられる構造的問題である。本記事は、持続可能性と気候変動をめぐる国際的議論に真に不可欠な論点を示唆している。
はじめに
武力紛争と軍事活動は、環境と気候に長期的な影響を及ぼしている。軍事戦争は、戦争地域における油井の燃焼から戦闘機や軍事車両のための燃料消費に至るまで、地球に大きな「カーボンフットプリント」を残す。しかし、こうした軍事関連の排出量は気候会計でしばしば無視されてきた。というのも、気候変動枠組条約において、各国は軍事排出量の報告が求められていないため、温室効果ガスの重大な排出源が隠されたままである。最近の研究によると、世界の軍隊は合計で、世界の総温室効果ガス排出量の約5.5%を排出しており、独立部門と仮定した場合の軍事部門は排出量の4番目に大きな排出源に位置付けられる。この割合は、ロシアや日本の国家全体の排出量よりも大きい。戦争や軍事化は、単なる人道的・地政学的問題ではなく、数字が示す通り、気候問題でもあるのだ。
本分析記事は、ベトナムやイラク、アフガニスタン、ウクライナ、ガザにおける戦争が気候に与えた歴史的・今日的影響、気候変動における軍事産業や軍隊の役割、民間航空や自動車などの他部門と比較した、世界の軍事費支出の規模——様々な種類の武器を製造・購入しているのは誰か——を、最新の科学的・政治的研究に基づき検証していく。その目的は、戦争装置が地球の気候にどのように影響を及ぼしているのか、そして軍事排出量への対処が気候変動対策にとってなぜ非常に重要なことなのかについて、分析上の概要を提供することである。
ガザにおける人間と気候の虐殺
イスラエルによるガザ地区のパレスチナ人に対する血濡れの侵攻(2023年10月〜2025年)は、その残虐行為、集団虐殺、意図的かつ組織的な飢餓化の規模において、前例のない壊滅的な人道的影響を及ぼした。それは、深刻な気候上の被害ももたらした。戦争当初から15か月間を対象とした最近の研究によると、ガザ地区の破壊とその後の復興に伴うカーボンフットプリントは、3100万トン以上のCO2換算量に達する可能性がある*。実際、この戦争が気候に与える影響は、100カ国の年間排出量を上回る(多くの小国は年間3000万トン未満のCO2換算排出量に収まる)。
〔*訳註1. 原文では、Benjamin Neimarkらによる論文 “War on the Climate: A Multitemporal Study of Greenhouse Gas Emissions of the Israel-Gaza Conflict” (2025年)を参照した、ニーナ・ラカーニー氏のガーディアン紙掲載記事が引用されている〕
〔ガザ地区が〕比較的小さな地域(約365㎢)で人口密度が高い(240万人)ことを考えると、これは恐ろしい数字だ。〔ガザ地区における〕戦争に関連する炭素排出量の99パーセント以上は、イスラエル軍の軍事作戦によるものである。それは、昼夜を問わない集中的空爆や、砲撃、戦車、占領軍を動員するために使用されるエネルギーである。最初の120日間で、イスラエルの空爆と地上攻撃によって排出されたCO2は、26カ国の年間排出量を上回った。ガザ地区における数約万トンもの瓦礫の撤去、住宅や病院、エネルギー・水道インフラの再建に伴う長期的な排出量は、爆弾、砲弾、ロケット団、ディーゼル燃料による即時的な排出量を上回るだろう。
研究者たちは、ガザ地区の復興段階では、戦争によるCO2換算の総排出量が約6000万トンに達すると想定している。これはスウェーデンやポルトガルなどの国家年間排出量に匹敵する。この結果は予備的なものだが、現代の市街戦が気候に大きな影響を与えているという警告として、ガーディアン紙などが取り上げるほど深刻なものだった。ここで特筆すべきは、ジェノサイドという人類全体にとっての人道的災厄のなかでCO2は差し迫った関心事ではないものの、こうした排出は戦場を超えて長期的な被害を及ぼすということだ。人口密集都市を2600万トンの瓦礫に変えることは——ガザで起きたことだが——粉塵や汚染物質を発生させ、その回復に膨大なエネルギーを必要とさせる。
恐ろしい虐殺の規模に加えて、ガーディアン紙の調査は、気候破壊の危険性や地球を守ることの責任について、建前上の倫理を訴える多くの西洋諸国政府の偽善を明らかにした。その一方で、かれらはイスラエル国家による破滅的な侵攻と、それによる現在および未来の気候変動の被害者への影響を資金援助し、支援し、可能にしているのだ。
振り返ると、現在のイスラエルによるガザ地区への侵攻以前にも、イスラエルがこの数年間で起こした戦争——パレスチナやレバノン、シリアなどにいるパレスチナ人やアラブ人に対する軍事演習、訓練、日常的な侵攻作戦——は、何億トンものCO2やその他の温室効果ガスを排出している。イスラエルのアグレッシブな軍事活動によって排出されるCO2排出量は、パレスチナやアラブ諸国の道路を走る何千万台もの自動車が排出する量に匹敵する。
2000年にアル=アクサー・インティファーダが勃発して以来、2006年7月のレバノン戦争を経て、ガザ地区での血みどろの戦争(最近の侵攻以前の戦争である2008〜2009年、2012年、2014年、2021年のもの)、そして1967年に占領されたパレスチナ領土における日常的な軍事作戦・軍事行動と続くなかで、イスラエル軍の車両・装備・航空機が消費した化石燃料の量は、数百億リットルと推定される。そして、この膨大な量の燃料の燃焼によって発生したCO2量は数千万トンと推定される。アル=アクサー・インティファーダ以前の数十年間にイスラエルが乗り出した軍事活動や戦争については、言うまでもない。
戦争の気候への影響——過去と現在の紛争
戦争は、燃料の燃焼、火災、爆発を含む直接的な排出や、生態系の破壊や復興など長期的な影響を通じて、気候システムに大きな影響を与え得る。歴史的に、戦争は環境破壊をもたらしてきた。例えば、米国によって始められたベトナム戦争(1955年-1975年)では、森林の被覆を除去し、ゲリラ軍の居場所を明らかにして追跡を容易にするために、米国によって「オレンジ剤」などの化学除草剤が広範囲で使用された。この野蛮な軍事戦略によって、ベトナムの森林の約44%が破壊されたと推定されている。この巨大な植生が失われた結果、膨大な量の炭素が大気中に放出され、生態系が破壊された。ベトナム戦争は、意図的に引き起こされた環境破壊から、「エコサイド」のいち事例としてしばしば参照される。このことは、何十年も経った今でもベトナムの森林や野生生物が完全には回復しておらず、戦争における森林除去が気候や生物多様性に長期的かつ恒久的な影響を残していることを示している。
現代の戦争は、莫大な温室効果ガスの排出を引き起こし続けている。その顕著な例が、1991年に約30カ国が加担したイラクに対する湾岸戦争である。イラク軍がクウェートから撤退する際、600以上の油井に火が放たれ、その火災による煤煙とCO2が数ヶ月間にわたって大気中に放出された。科学者たちは、クウェートの油井火災だけで、1991年の化石燃料による世界のCO2排出量の2〜3%に相当すると推定している。この戦争が寄与した世界的な排出量の増加分は、中規模の工業国の年間CO2排出量にほぼ匹敵するほど、不釣り合いなものであった。石油の燃焼から出る煤煙は数千キロメートルも飛散し、空を暗くし、黒色炭素の浸透によりヒマラヤなどの遠く離れた氷河の融解を加速させた。CO2排出とは別に、湾岸戦争による火災は、煙雲下での地域的な気温の低下と、広範囲にわたる大気汚染を引き起こした。
同様に、2003年に米国が引き起こしたイラク戦争とその後の紛争では、軍事作戦によって燃料が大量に燃焼され、石油パイプラインが破壊された。イラクでは、他の戦争で荒廃した国々と同様、製油所やインフラが損傷したことで、紛争に伴うガスフレア(余剰天然ガスの燃焼)がさらに深刻化した。イラクやリビアなどアラブ諸国における、米軍やNATO軍による政権転覆は燃焼量の急増につながり、これらの紛争の影響を受けた国々は2020年の世界全体のフレア排出の15%を占めることになった**。つまり、戦争は、ガスフレアのような汚染を著しく悪化させ、平時の基準をはるかに上回るほど国家の排出量を引き上げるのである。
〔**訳註:コロラド鉱山大学によると、2020年のリビア、シリア、イエメン、イラクの4カ国におけるガスフレア由来のCO2排出量は22.0547bcm(=220億547万立方メートル)であり、世界全体の152.4370bcm(=1520億4370万立方メートル)に対して約15%を占めていた。本文にある通り政権転覆やそれを狙った軍事介入が燃焼量・排出量の急増につながったか否かについては別途検証が必要だが、引用元記事では、これらの4カ国はいずれも紛争や軍事介入を受けて不安定な情勢が継続し、脆弱なガバナンスのもとで古い石油インフラを使用し続けていることが、指摘されている〕
1990年代に起きたいくつかの紛争も顕著な環境的影響をもたらした。ボスニア戦争とより広範なユーゴスラビア紛争(1990年代)では、工業施設や石油貯蔵庫が爆撃により損傷し、汚染物質が放出されることがあった。例えば、コソヴォ紛争中の1999年に起きた事件が挙げられる。セルビアの石油化学工場に対するNATO軍の空爆により、大量の有害化学物質が放出され、火災が発生した。その影響は局所的だったとはいえ、それはまさに環境災害であった。同時に、2006年のイスラエルによるレバノン侵攻からも環境上の影響があった。イスラエルによるジヤの沿岸発電所を標的とした空爆により、約15,000トンの重油が地中海に流出した。何よりもまず、石油流出によって近隣海岸や海洋生物の生態系が被害を受け、さらに油の清掃や焼却によって不特定量の温室効果ガスが排出された。これらの例は、たとえ戦争が地理的に限られた場所で起きている場合でも、その戦域において甚大な汚染や炭素排出を引き起こしうることを示している。
2001年9月11日以降の戦争は、紛争の気候面でのコストをより鮮明にしている。アフガニスタン戦争(2001年〜2021年)とイラク戦争(2003年〜2011年)は、航空作戦・地上車両・兵站に大量の燃料を消費する、米国の長期間の軍事作戦を伴った。ブラウン大学の「戦争のコスト」研究の分析によると、米軍は2001年から2017年にかけて、いわゆる「グローバルな対テロ戦争」のなかで、約12億メートルトンの温室効果ガスを排出した。なお、この排出量のうち4億トン以上は、アフガニスタン、イラク、その他の戦闘地域での作戦における、戦争のための燃料使用に直接起因するものである。このデータを当てはめるならば、4億トンのCO2は、オーストラリアのような国家の年間排出量にほぼ相当する。
米軍のアフガニスタンでの軍事作戦は、遠隔地用のディーゼル発電機や燃料輸送の長距離補給線を必要とし、それは非常に炭素集約的な戦争となった。米軍用機による化石燃料の消費量は膨大であり、空爆や兵士・無人航空機輸送用の航空燃料が国防総省の軍事燃料消費量の大部分を占めている。また、アフガニスタンでは軍事目的での大規模な森林伐採も記録されている。さらに、長年にわたる紛争と大規模な人口移動を受けて、燃料や収入源のため広範囲に森林伐採がなされ、土地劣化の一員となっている。
アフガニスタンの植生について衛生画像を用いた研究では、武力紛争が人々の土地利用を妨げ、人々が避難した地域では局所的な環境回復につながった一方で、他の地域では森林伐採や農業の崩壊をもたらしたことを確認した。総じて、戦争は環境保護に必要な自然資源とガバナンスに強い負荷をかけたのである。
この数年間、ロシア・ウクライナ戦争(2022年から継続中)とイスラエルによるガザ侵攻(2023年-2025年)から、現代の紛争による気候上の恐るべき影響が明らかになってきた。ウクライナの戦争は、高強度の産業化戦争であり、膨大な量のCO2を排出している。分析者たちは、ロシア・ウクライナ戦争の最初の12ヶ月(2022年2月-2023年2月)で、約1億2000万メートルトンのCO2換算排出量を推定している。これは、ベルギーが1年間に排出する温室効果ガスに匹敵する。この推算には、戦闘による直接的排出(戦車・爆撃・飛行機など)、火災やインフラ破壊など間接的排出、そして被害を受けた都市の復興に伴う付随的排出が含まれている。
驚くべきことに、ウクライナの公共インフラの再建は戦争におけるカーボンフットプリントのおよそ半分を占めることが予想されている。というのも、破壊され瓦礫となった建物は、最終的にセメント、鉄鋼、エネルギーを使って再建されるが、これは非常にCO2排出量の多いプロセスになる。また、戦争による排出量の約20%は、日々の軍事作戦による。つまり、残りは「戦後」の復興活動による排出となる。同様に、紛争はウクライナで大規模な森林火災や環境破壊を引き起こした。その一部は意図的なもの(焦土作戦)であり、他の一部は副次的被害として発生した。その結果、その森林の貯留炭素が放出された。全体として、戦争が長引くほどカーボンフットプリントが大きくなり、ヨーロッパは排出量の削減を目指しながらも、気候目標を損なっているのだろう。
本質的に、戦争は環境破壊と深く絡み合っている。都市や石油施設の焼却は温室効果ガスを排出し、戦争地域における統治の崩壊は資源の非持続な利用につながる。例えば、紛争下のシリア、イエメン、コンゴ民主共和国、ガザでは薪を得るために緑地や森林が失われた。
炭素排出のほか、追加的な気候リスクを伴う軍事戦術もある。イスラエルがガザ地区で行ったような焦土作戦は作物や森林、石油インフラを意図的に燃やすことで、二酸化炭素を排出するだけでなく、地域の気候フィードバックを変える可能性もある。例えば、緑地や森林の消失により、降雨および炭素隔離〔訳註3. 大気中の二酸化炭素を捕捉し、貯蔵するプロセス〕が減ることになり得る。
アゼルバイジャン・アルメニア間のナゴルノ・カラバフ紛争(2020年)では、敵の潜伏を妨げるため、広大な森林が焼却されたと報じられている。シリアとイラクでの紛争においては、撤退する部隊が油井に火をつけたり、石油精製所を破壊したりしたため、健康に有害な黒煙が発生し、遠く離れた氷雪地帯に黒色炭素が飛散した。
要約すると、過去および現在の戦争は、さまざまな形で気候変動に大きく寄与している。紛争に伴う排出量は、軍事用燃料(戦車・ジェット機・軍艦など)の使用、炭素排出量の多いインフラ(油井や工業施設)の意図的な破壊、制御不可能な火災・爆発、そして戦後の盛んな復興(セメント・鉄鋼・エネルギーを必要とする)によって発生している。戦争による森林の破壊や住処の喪失も、炭素の貯蔵庫を炭素排出源に変えている。歴史的に、一度の戦争が数十年間にわたり環境条件を悪化させていく可能性がある——ベトナムの森林で見られたように。現代の戦争は、1年かそれ以上にわたって国全体が排出する量のCO2を排出することもあり得る。気候学や紛争研究の研究者は、その影響が甚大であることを踏まえ、戦争による環境コストが「かなり無視されている」ことをより一層強く訴えている。この現実を認識することが緩和への第一歩である。もし世界の気候目標を達成したいのであれば、戦争や軍事化におる排出を、他の主要な排出源と同等に対処しなければならない。
***
後編に続く
翻訳:中鉢夏輝
使用画像:US Navy 030402-N-5362A-004 U.S. Army Sgt. Mark Phiffer stands guard duty near a burning oil well in the Rumaylah Oil Fields in Southern Iraq.jpg via Wikimedia Commons.
